love or die~死亡フラグ回避には恋愛があり得ないカレと×××せよ!~

KUMANOMORI(くまのもり)

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秋津甲斐のゾーンディフェンス

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 昔、迎えに来てくれたのは美玖の方だった。引っ越してきたばかりで、近くに友達もいなかった保育園時代。
「甲斐くん。いっしょに、あそぼ」
 と言って家に呼びに来たのは、近所に住んでいた美玖だ。美玖は、いつも元気に駆け回っていて、よく笑う子だった。黒くて引き込まれるような瞳でじっと見てきて、遊ぶ?と聞いてくる。
 頷くと、笑顔が弾けた。
 あ、かわいい、と思って、それからは美玖が誘いに来てくれるのが、楽しみになる。
 笑顔でいて欲しい、と思ったのがきっかけで、美玖の様子がいつも気になるようになった。

 オレは美玖や美玖の兄弟に交じって遊ぶようになる。美玖と保育園は違ったけど小学校が同じになったことで、遊ぶ頻度はより増えた。
 ありていに言えば、親が不在がちで寂しかった幼少期の救いが、美玖や美玖の兄弟だったのだと思う。

 美玖の呼びかけが「甲斐くん」から「甲斐」になるのは早く、家に遊びに来ることも増えた。がらんどうの家に中に美玖が来ると、家に生命が宿った感じがする。

 それ以降、親の転勤や単身赴任により、「ついてくるか?転校するか?」と問いには、必ず「残る」と答えることにした。美玖がいればいい、と思ったのだ。必要に迫られて家事や炊事のスキルは上がっていった。
 早く大人になりたい、と言うのが小学生の頃からのオレの思いだ。

 大人になれば美玖と結婚出来るかもしれない、と思った。結婚イコール一緒に暮らせる、一緒に過ごす時間が増える、という小学生の発想だ。
 美玖が同じ家に帰ってくれればいいのに、と思ったことは何度もある。そのために出来ることは大人になることだ、と思っていた。


 でも、現実はのろのろ、だらだらと日々を重ねる他ない。
 小学生の頃、「好きな人って誰?」の答えに、美玖が「甲斐」と答えていたのを知った。その好きな人っていうのは、男女の区別もなくただ仲のいい相手として答えていたと思うけれど、内心すごく嬉しかったのだ。当時は美玖と仲良くするのも自由だったし、何も気にしなくてよかった。

 でも、中学になってからは、がらりと変わってしまう。「佐久良美玖と付き合ってんの?」と聞かれることが増えて、オレは「どう思う?」「当ててみ?」と質問返ししてかわしていたけど、一度、美玖が同じ質問に真面目に答えているのを目撃した。
「幼なじみだから、付き合ってるとかじゃないから」と言って。通りがかりざまに、「マジレスすんな」と言ったら、甲斐がちゃんと幼なじみだって言わないからじゃん、と怒られる。

 付き合ってるのと幼なじみって何が違うんだっけ、とふと思うが、ああ、そう言えばキスとかそういうのはやってないな、と後で気づいた。幼なじみか、付き合っているかとか、そんな区別必要か?と正直思うのも事実だけれど、美玖も周りの奴もなぜか、重要視しているようだ。


 同級生はともかく、先輩からのいじりは中々しつこく、それは首謀格の先輩が美玖に気があったからだと知る。
 やっただの、付き合ってるだののいじりに、だるくなってきて、なんか文句あんの?うるせぇんだけど、気になるならオレに当たってねぇで、美玖を落としてみろよ、と口に出かけるけれど、スマートじゃない。

 何より美玖に当たれたら、マズい。そもそも美玖を落されても微妙だ。
「すみません、オレ経験値ないんで、先輩達の話は刺激強すぎ。ところで先輩って気になる子いるんすか?」
 と知らんぷりして逃げるに限る。

 高校にあがったとて、ジリジリダラダラと、だるい日々は続く。
「佐久良とやった?」
「やってねぇ」まだな。
「佐久良と付き合うの?」
「付き合わねぇ」まだ。
 いつも、心の中でまだ、をつける。そんな機会あるか分からないし、ほぼないんだろうけど。
 
 好きなのは当たり前。
 美玖と付き合うとか、やるとか、出来るに越したことはないけど、出来なくても、美玖がそばにいるならいいとも思っていた。
 下衆な言い方をすれば、必要ならそういうのは別でやるからさ、美玖はただそばにいてくれよ、と思っていたのだ。自分ではプラトニックだと思ってたけど、多分美玖は、そう言うのをプラトニックだとは思わないと思う。

 でも、どうやっても、突破口は見当たらなかった。謎のルールが適用されるまでは。
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