8 / 15
さて、どうしよう?
しおりを挟むでもやっぱり甲斐は嘘つきだった。
ゲーム休憩と称して、抱きしめてくる。スマホの画面ではキャラクターがバトル準備OKで待機していた。
身体が密着すると、布の上からでも身体の輪郭が分かる。甲斐はやっぱり男性の身体を持っていて、私とは違うと確認してしまう。
「それ欲しかったんだよな、平べったい胸板」と私が言う。
そしたら、甲斐は、「え?何」と言って、ものすごく驚いた顔をする。
「私も、甲斐と同じ男の子になると思ってた。中学入学前まで、兄貴とか陵右みたいになるって、本気で信じてたんだけど。聞いてないよってことが多すぎる」
「いや、琉右も陵右も、昔から身体でかかったじゃん。どうしてそう思った」
「私、家で女扱いされてないもん。特に陵右からの扱いヒドいよ」
欲しかったな男の子の身体、と呟くと甲斐が大げさにため息をついてみせる。
「それ、誤解されるって。その発言だとすごいエッチな奴みたい」
「すぐそうやって、そっち方面いく。周りのいじりとかも余計だったな。すぐできてるとか聞いてくる」
「てきとーに、できてる、甲斐とやったよ、と言っとけばよかったじゃん。あれ美玖に行きたかった奴が、探りいれてるだけだし」
「バッカじゃない?絶対ヤダ。だとすれば、みんな射程範囲広すぎ。ホント誰でもいいんじゃん」
「あながち間違いじゃないのが辛いな」
「男なら、もっと甲斐と仲良くできたのに」
「え、仲良くねぇのオレら?」
「私が男なら、そういう話も同じ目線で楽しめたと思うよ。今は同じ目線じゃない」
「オレのこと好きじゃん、だとすれば」
「え?」
「同じ目線になりたいって」
甲斐が顔を近づけようとするのが分かったから、顔を顔の間に手を置いてみる。そしたら、指を噛まれそうになったので、避けた。避けんなよ、と言って甲斐は笑う。
「幼なじみとしては、好きだよ」
「幼なじみとして、と普通の好きは何が違う?」
「そんなの、分からない。何で詰めてくるの」
私が聞くと、甲斐はもう一度きつく抱きしめてくる。
「やるの早かったなぁ、告るのも早かった。せめて卒業前とかなら、余韻持たせられたのに。前半早々の得点は、やりにくい」
耳元でぐちぐちと呟いてくるのだった。意味が分からない。
「何言ってんの」
「これから大学行くだろ?就職するだろ?スタート地点が早いと、続かせるの大変だ。だから、始めないように一線守ってたのに」
甲斐がそんな風に考えているなんて、知らなかった。
私の知らない観点から、甲斐は私たちの関係を見ていたのだと知る。だとしても、今はそのまま流されてあげるつもりはない。
「甲斐はそうだろうね、続かなそう」
「美玖だよ」
「え?工藤のこと?」
私がそう言ったら、甲斐はムスッとした顔になった。
「何で篤紀?」
「じゃ、甲斐の彼女のこと?」
「カノジョ、とは」
「続かせるって言ってたじゃん。由比島さんと付き合ってるんだよね?」
「お前、オレのことなんだと思ってんの」
甲斐が明らかに不貞腐れた顔になったので、私は面白くなってきてつい笑ってしまう。
「甲斐は甲斐」
「あ、お前分かってて言ってるだろ?」
「バレたか」
明らかに甲斐が距離を詰めたがっているのが分かるから、話で気を逸らそうとしたのだった。いやなわけじゃない。
でも、ルールも関係なく、甲斐とそういう風になっていいのか、とも思う。仲良くできなくなったらどうしよう、とも思うのだ。
「やっぱ、見え透いてよな。あんなんで、自分のものにしたって思うなよって」
「私みたいに、女の子の身体が欲しかったってことじゃないんだよね?」
「オレは男のまま、女の子の美玖が欲しい。いっぱい触りたい」
「やっぱ、甲斐おかしいわ」
顔を両手で押さえられて、顔をぎりぎりまで近づけてきて、「アリなら、美玖からして」と言われる。明るい瞳が好奇心で光っていた。私がどう出るのか、ワクワクしている目だ。
「目、つぶってよ」
「やだ、逃げるだろ」
甲斐はやっぱり甲斐だと思うけれど、前より少し甲斐のことが分かった気がする。カッコつけだけど、意外に、可愛い。
顔を少し近づけたら、最終的には甲斐の方からくっつけてきた。唇を甘噛みしてくるので、仕返しをしたら甲斐は驚いた顔をする。
「悪いことしてる感じ、する?」と聞けば、
「全然しない、当然だろって思う」と甲斐は言った。
唇を甘噛みするのが心地よくて、これ好きかも、と言ってかみかみしていたら、甲斐が腰を引くのが分かった。何となく雰囲気は察したけれど、知らんぷりをしてみる。
かみかみしていると、頭の後ろに甲斐の手が来て、角度を変えて深くキスしてきた。いや、それじゃない、と思ったので、浅く戻す。
抱き寄せられて、胡坐になった甲斐の腿の上にまたがるように座らされた。
「そろそろゲーム再開しよ」と私は言う。
「もう少し、いいじゃん」
甲斐の吐息が首にかかって、その瞬間に皮膚の熱が思い出される。思わず顔を見上げれば、甲斐もまた、同じように何かを思い出したようで、決まり悪そうに目を逸らした。同じことを思っているんだ、と思った。でも、甲斐は肝心なことは言わないと思う。必死で隠そうとしているから。
私が身体を寄せてみたら、ビクッと震えて腰を引く。
「美玖、ちょい待て、分かるだろ」
「分かんないよ、だって、前はナイって言ってた」
私が言ったら、意外に根に持つんだな、と甲斐は呟く。
根に持ってはいないけれど、甲斐が悲しそうにするそれをイメージするのは辛い。ごめんと言いながら、次々にクリアしていく、あのイメージは苦しいのだ。
「美玖を傷付けたくないのはホント。でも、こればっかはどうしようもない」
「出しちゃえば」
「はぁ?」
「出したら冷静になれるって誰かが言ってたような?」
私が言うと、甲斐は深く深くため息をつく。
「そう言う世界観に入れこまないで、って美玖が言ってたのが分かる気がする。出してとか、言われると、色々崩れてきそう」
顔を手で押さえて見せる甲斐は、やっぱり幼なじみの甲斐でしかない。でも、甲斐に感じる自分の思いは、少し今までとは違うかもしれない、と私は思う。こうやって触れ合うことは、イヤじゃないことを知ったから。
「甲斐が悲しそうなのはイヤなの。でも、私を避けてる甲斐が、他の子と仲いいと辛い。他の子と仲良くするなら、私とも仲良くしてほしい」
素直な気持ちを伝えたら、当たり前じゃん、と甲斐は言ってなぜか喜んで、頭を撫でてくる。途中からふざけてグルーミングみたいになってきたので、逃げた。
「でも、他の子と仲良くしないで、とかじゃ、ねぇんだ」
「ないよ、彼女じゃないし」
「彼女になんないの?」
「なんない、幼なじみ」
と言ったら、甲斐は分かりやすく肩を落とす。そんな大げさな、と思ったら、吹き出してしまった。そしたら、甲斐はムスッとした顔になる。
「実は、美玖のがチャラいんじゃね?距離感の取り方、達人クラス」
「甲斐の言葉を借りるなら、早かった。もう少しして、まだそういう感じだったら、もう一度考える」
「その間に、美玖また死ぬかも」
「そしたら、また、神社に来てくれる?」
私が聞いたら、もちろん、と甲斐は答えた。
そして、目と目が合って、さあ困ったぞ、と思う。
話題も、逃げ道もなくなって来た。
「マジで無理なら、今すぐ逃げていい。傷をえぐりたいわけじゃないし」
正面から言われると、どうしても話題を少しずらしたくなってしまうのが、私のクセのようだ。
「工藤と付き合ってるし」
「じゃ、今通話して別れて。それかオレが話す」
「前に、甲斐、悲しそうだったし」
「美玖がイヤじゃないなら、悲しくなんてない」
「じゃ、えーと」
甲斐はお見通しと見えて、詰めてくる。自分の気持ちはよく分からない。甲斐が少し変になったな、とは思うけれど、私の甲斐へ思いが変わったわけじゃない。
甲斐に触れられるときの感覚が変わってしまった、それだけだ。
「本音は?」
「口とか後ろにとかは、ちょっと」
思いついたことを私が言うと、甲斐がハッとした顔をして、静止した。
「ゴメンナサイ」
と片言で言う。その後、あれはクリアのため。あれがオレのフツウって思われると、困る、と言い募る甲斐の目がすっかり泳いでしまった。私は甲斐の頬に手を当ててこっちを向かせる。甲斐のフツウが何なのかは置いておくとしても、分かったことがあった。
「でも、キスは好き」
初めて自分からキスをしてみる。甲斐の上唇を少し噛む。「自分からキス」、ひょっとしたらこれを他の人にしていたら、死んでいたかもしれないな、とも思う。
嚙み返されて再び甘噛みする。そんな小さな闘いを繰りかえして遊んでいた。
※※※
じゃれ合いみたいな遊びをしていたら、腿に触れるものを感じて、今度こそは指摘したら、「美玖のせい」と言う。
「前に好きな子ととだけしたくないの?って言われてグサッてきた。美玖だって好きな奴とだけやりたいだろって思って、オレでごめんて思った」
「甲斐は悪くないじゃん、ルールのせい」
「悪い奴だよ、気持ちよかった」
「え?」
「そんな場合じゃないのに。すっげー気持ちよくて、ごめんって思った」
言い方はスポーツで汗をかいて気持ちよかった、の調子だった。何言ってんの、と私は言う。
「好きな子だし、最高に決まってるじゃん。名前呼ばれるだけで、ヤバかった」
「ま、待って。甲斐って、もっとカッコつけてなかったっけ。諸々に関して、相手から来るから仕方なく相手してます、みたいな感じの」
「基本的にチャンス見計らってるだけ。昔っから、欲しいものはハッキリしてるし」
「今は、チャンス?」
と聞いたら甲斐は頷いた。
「そう。後悔するより、ダサくて恥ずかしい方がマシ」
そう言って、身体に触れてきた甲斐が息を飲んだのが分かった。
だから、「やだ、比べないで」と言う。
甲斐に女性としての部分を品評されると、梯子を外されたような気分になるからいやだ。
そう言ったら、甲斐は「うわ、美玖ってかわいい」と感動したような声をあげる。
「だって、甲斐が驚いた感じだったから」
「やっと現実が追いついてきた感動って奴」
「何それ」
「好きな子以上にいいのってないじゃん、美玖しかいらねぇ」と甲斐は言う。
そして、
「もっと、触りたい」
視線がお腹よりも下に動く。
「変な声、出ちゃうから」
「出せよ」
身体を寄せて抱きしめてくる。首に甲斐の息がかかって、じりじりと皮膚が焼かれる気分になった。
「仲間内で言いふらさない?」
「はぁ?言わねぇよ」
「信用できない」
「オレ基本的に美玖のことだけは、完全ガード。代理の情報横流しして、逃がす。触れられたくねぇじゃん」
「え、そうなの?」
「本当のこと、他の奴に言ってどうすんの。美玖にだけ言えばいい。好きだし、触りたいし、何回でももっと深く繋がりたい」
手が、布越しのそこへ触れてくる。
甲斐が意図して触れたのかは分からないけれど、その部分が、ジンと痺れて驚く。小さく、あ、と声を出して私は身体をよじった。甲斐は小さな声で、かわいい、と言う。顔が赤くなってくるのが分かった。
どうしてこんなことになったんだろう?
「おかしくなったよ、甲斐」
「違う、これが本音。そばにいたいから、答えはいらない。けど、今美玖の身体が欲しい。やりたいんだけど」
「それ、露骨すぎない?」
「まったくナシ?」
と言われて甲斐と目を見合わせる。
ないって言ったのに、どうしてこうなった?でも、新しい遊びを見つけたときのように、ワクワクした表情をたたえた甲斐の目を見たら、まったくナシではない気がした。
さて、どうしよう?
どのくらいなら、アリかな?
「少しだけ、アリ」
私が言ったら、甲斐の目にサッと明るい光が差す。
嬉しくて震える、と言って抱きしめてきた。
まさか、そんなあからさまに喜ぶとは思わない。
でも、その反応がなぜか嬉しかったんだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる