love or die~死亡フラグ回避には恋愛があり得ないカレと×××せよ!~

KUMANOMORI(くまのもり)

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さて、どうしよう?

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 でもやっぱり甲斐は嘘つきだった。

 ゲーム休憩と称して、抱きしめてくる。スマホの画面ではキャラクターがバトル準備OKで待機していた。
 身体が密着すると、布の上からでも身体の輪郭が分かる。甲斐はやっぱり男性の身体を持っていて、私とは違うと確認してしまう。
「それ欲しかったんだよな、平べったい胸板」と私が言う。
 そしたら、甲斐は、「え?何」と言って、ものすごく驚いた顔をする。

「私も、甲斐と同じ男の子になると思ってた。中学入学前まで、兄貴とか陵右みたいになるって、本気で信じてたんだけど。聞いてないよってことが多すぎる」
「いや、琉右も陵右も、昔から身体でかかったじゃん。どうしてそう思った」
「私、家で女扱いされてないもん。特に陵右からの扱いヒドいよ」
 欲しかったな男の子の身体、と呟くと甲斐が大げさにため息をついてみせる。

「それ、誤解されるって。その発言だとすごいエッチな奴みたい」
「すぐそうやって、そっち方面いく。周りのいじりとかも余計だったな。すぐできてるとか聞いてくる」
「てきとーに、できてる、甲斐とやったよ、と言っとけばよかったじゃん。あれ美玖に行きたかった奴が、探りいれてるだけだし」
「バッカじゃない?絶対ヤダ。だとすれば、みんな射程範囲広すぎ。ホント誰でもいいんじゃん」
「あながち間違いじゃないのが辛いな」
「男なら、もっと甲斐と仲良くできたのに」
「え、仲良くねぇのオレら?」
「私が男なら、そういう話も同じ目線で楽しめたと思うよ。今は同じ目線じゃない」
「オレのこと好きじゃん、だとすれば」
「え?」
「同じ目線になりたいって」
 甲斐が顔を近づけようとするのが分かったから、顔を顔の間に手を置いてみる。そしたら、指を噛まれそうになったので、避けた。避けんなよ、と言って甲斐は笑う。

「幼なじみとしては、好きだよ」
「幼なじみとして、と普通の好きは何が違う?」
「そんなの、分からない。何で詰めてくるの」
 私が聞くと、甲斐はもう一度きつく抱きしめてくる。
「やるの早かったなぁ、告るのも早かった。せめて卒業前とかなら、余韻持たせられたのに。前半早々の得点は、やりにくい」
 耳元でぐちぐちと呟いてくるのだった。意味が分からない。

「何言ってんの」
「これから大学行くだろ?就職するだろ?スタート地点が早いと、続かせるの大変だ。だから、始めないように一線守ってたのに」
 甲斐がそんな風に考えているなんて、知らなかった。
 私の知らない観点から、甲斐は私たちの関係を見ていたのだと知る。だとしても、今はそのまま流されてあげるつもりはない。

「甲斐はそうだろうね、続かなそう」
「美玖だよ」
「え?工藤のこと?」
 私がそう言ったら、甲斐はムスッとした顔になった。
「何で篤紀?」
「じゃ、甲斐の彼女のこと?」
「カノジョ、とは」
「続かせるって言ってたじゃん。由比島さんと付き合ってるんだよね?」
「お前、オレのことなんだと思ってんの」
 甲斐が明らかに不貞腐れた顔になったので、私は面白くなってきてつい笑ってしまう。
「甲斐は甲斐」
「あ、お前分かってて言ってるだろ?」
「バレたか」
 明らかに甲斐が距離を詰めたがっているのが分かるから、話で気を逸らそうとしたのだった。いやなわけじゃない。
  でも、ルールも関係なく、甲斐とそういう風になっていいのか、とも思う。仲良くできなくなったらどうしよう、とも思うのだ。

「やっぱ、見え透いてよな。あんなんで、自分のものにしたって思うなよって」
「私みたいに、女の子の身体が欲しかったってことじゃないんだよね?」
「オレは男のまま、女の子の美玖が欲しい。いっぱい触りたい」
「やっぱ、甲斐おかしいわ」
 顔を両手で押さえられて、顔をぎりぎりまで近づけてきて、「アリなら、美玖からして」と言われる。明るい瞳が好奇心で光っていた。私がどう出るのか、ワクワクしている目だ。
「目、つぶってよ」
「やだ、逃げるだろ」
 甲斐はやっぱり甲斐だと思うけれど、前より少し甲斐のことが分かった気がする。カッコつけだけど、意外に、可愛い。
 顔を少し近づけたら、最終的には甲斐の方からくっつけてきた。唇を甘噛みしてくるので、仕返しをしたら甲斐は驚いた顔をする。

「悪いことしてる感じ、する?」と聞けば、
「全然しない、当然だろって思う」と甲斐は言った。
 唇を甘噛みするのが心地よくて、これ好きかも、と言ってかみかみしていたら、甲斐が腰を引くのが分かった。何となく雰囲気は察したけれど、知らんぷりをしてみる。

 かみかみしていると、頭の後ろに甲斐の手が来て、角度を変えて深くキスしてきた。いや、それじゃない、と思ったので、浅く戻す。
 抱き寄せられて、胡坐になった甲斐の腿の上にまたがるように座らされた。
「そろそろゲーム再開しよ」と私は言う。
「もう少し、いいじゃん」
 甲斐の吐息が首にかかって、その瞬間に皮膚の熱が思い出される。思わず顔を見上げれば、甲斐もまた、同じように何かを思い出したようで、決まり悪そうに目を逸らした。同じことを思っているんだ、と思った。でも、甲斐は肝心なことは言わないと思う。必死で隠そうとしているから。
 私が身体を寄せてみたら、ビクッと震えて腰を引く。

「美玖、ちょい待て、分かるだろ」
「分かんないよ、だって、前はナイって言ってた」
 私が言ったら、意外に根に持つんだな、と甲斐は呟く。
 根に持ってはいないけれど、甲斐が悲しそうにするそれをイメージするのは辛い。ごめんと言いながら、次々にクリアしていく、あのイメージは苦しいのだ。
「美玖を傷付けたくないのはホント。でも、こればっかはどうしようもない」
「出しちゃえば」
「はぁ?」
「出したら冷静になれるって誰かが言ってたような?」
 私が言うと、甲斐は深く深くため息をつく。
「そう言う世界観に入れこまないで、って美玖が言ってたのが分かる気がする。出してとか、言われると、色々崩れてきそう」
 顔を手で押さえて見せる甲斐は、やっぱり幼なじみの甲斐でしかない。でも、甲斐に感じる自分の思いは、少し今までとは違うかもしれない、と私は思う。こうやって触れ合うことは、イヤじゃないことを知ったから。

「甲斐が悲しそうなのはイヤなの。でも、私を避けてる甲斐が、他の子と仲いいと辛い。他の子と仲良くするなら、私とも仲良くしてほしい」
 素直な気持ちを伝えたら、当たり前じゃん、と甲斐は言ってなぜか喜んで、頭を撫でてくる。途中からふざけてグルーミングみたいになってきたので、逃げた。

「でも、他の子と仲良くしないで、とかじゃ、ねぇんだ」
「ないよ、彼女じゃないし」
「彼女になんないの?」
「なんない、幼なじみ」
 と言ったら、甲斐は分かりやすく肩を落とす。そんな大げさな、と思ったら、吹き出してしまった。そしたら、甲斐はムスッとした顔になる。
「実は、美玖のがチャラいんじゃね?距離感の取り方、達人クラス」
「甲斐の言葉を借りるなら、早かった。もう少しして、まだそういう感じだったら、もう一度考える」
「その間に、美玖また死ぬかも」
「そしたら、また、神社に来てくれる?」
 私が聞いたら、もちろん、と甲斐は答えた。
 そして、目と目が合って、さあ困ったぞ、と思う。
 話題も、逃げ道もなくなって来た。


「マジで無理なら、今すぐ逃げていい。傷をえぐりたいわけじゃないし」
 正面から言われると、どうしても話題を少しずらしたくなってしまうのが、私のクセのようだ。
「工藤と付き合ってるし」
「じゃ、今通話して別れて。それかオレが話す」
「前に、甲斐、悲しそうだったし」
「美玖がイヤじゃないなら、悲しくなんてない」
「じゃ、えーと」
 甲斐はお見通しと見えて、詰めてくる。自分の気持ちはよく分からない。甲斐が少し変になったな、とは思うけれど、私の甲斐へ思いが変わったわけじゃない。
 甲斐に触れられるときの感覚が変わってしまった、それだけだ。

「本音は?」
「口とか後ろにとかは、ちょっと」
 思いついたことを私が言うと、甲斐がハッとした顔をして、静止した。
「ゴメンナサイ」
 と片言で言う。その後、あれはクリアのため。あれがオレのフツウって思われると、困る、と言い募る甲斐の目がすっかり泳いでしまった。私は甲斐の頬に手を当ててこっちを向かせる。甲斐のフツウが何なのかは置いておくとしても、分かったことがあった。

「でも、キスは好き」
 初めて自分からキスをしてみる。甲斐の上唇を少し噛む。「自分からキス」、ひょっとしたらこれを他の人にしていたら、死んでいたかもしれないな、とも思う。
 嚙み返されて再び甘噛みする。そんな小さな闘いを繰りかえして遊んでいた。
 

※※※


 じゃれ合いみたいな遊びをしていたら、腿に触れるものを感じて、今度こそは指摘したら、「美玖のせい」と言う。
「前に好きな子ととだけしたくないの?って言われてグサッてきた。美玖だって好きな奴とだけやりたいだろって思って、オレでごめんて思った」
「甲斐は悪くないじゃん、ルールのせい」
「悪い奴だよ、気持ちよかった」
「え?」
「そんな場合じゃないのに。すっげー気持ちよくて、ごめんって思った」
 言い方はスポーツで汗をかいて気持ちよかった、の調子だった。何言ってんの、と私は言う。
「好きな子だし、最高に決まってるじゃん。名前呼ばれるだけで、ヤバかった」
「ま、待って。甲斐って、もっとカッコつけてなかったっけ。諸々に関して、相手から来るから仕方なく相手してます、みたいな感じの」
「基本的にチャンス見計らってるだけ。昔っから、欲しいものはハッキリしてるし」
「今は、チャンス?」
 と聞いたら甲斐は頷いた。
「そう。後悔するより、ダサくて恥ずかしい方がマシ」

 そう言って、身体に触れてきた甲斐が息を飲んだのが分かった。
 だから、「やだ、比べないで」と言う。
 甲斐に女性としての部分を品評されると、梯子を外されたような気分になるからいやだ。
 そう言ったら、甲斐は「うわ、美玖ってかわいい」と感動したような声をあげる。
「だって、甲斐が驚いた感じだったから」
「やっと現実が追いついてきた感動って奴」
「何それ」
「好きな子以上にいいのってないじゃん、美玖しかいらねぇ」と甲斐は言う。

 そして、
「もっと、触りたい」
 視線がお腹よりも下に動く。
「変な声、出ちゃうから」
「出せよ」
 身体を寄せて抱きしめてくる。首に甲斐の息がかかって、じりじりと皮膚が焼かれる気分になった。
「仲間内で言いふらさない?」
「はぁ?言わねぇよ」
「信用できない」
「オレ基本的に美玖のことだけは、完全ガード。代理の情報横流しして、逃がす。触れられたくねぇじゃん」
「え、そうなの?」
「本当のこと、他の奴に言ってどうすんの。美玖にだけ言えばいい。好きだし、触りたいし、何回でももっと深く繋がりたい」

 手が、布越しのそこへ触れてくる。
 甲斐が意図して触れたのかは分からないけれど、その部分が、ジンと痺れて驚く。小さく、あ、と声を出して私は身体をよじった。甲斐は小さな声で、かわいい、と言う。顔が赤くなってくるのが分かった。


 どうしてこんなことになったんだろう?
「おかしくなったよ、甲斐」
「違う、これが本音。そばにいたいから、答えはいらない。けど、今美玖の身体が欲しい。やりたいんだけど」
「それ、露骨すぎない?」
「まったくナシ?」
 と言われて甲斐と目を見合わせる。

 ないって言ったのに、どうしてこうなった?でも、新しい遊びを見つけたときのように、ワクワクした表情をたたえた甲斐の目を見たら、まったくナシではない気がした。

 さて、どうしよう?
 どのくらいなら、アリかな?
「少しだけ、アリ」
 私が言ったら、甲斐の目にサッと明るい光が差す。
 嬉しくて震える、と言って抱きしめてきた。
 まさか、そんなあからさまに喜ぶとは思わない。

 でも、その反応がなぜか嬉しかったんだ。
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