love or die~死亡フラグ回避には恋愛があり得ないカレと×××せよ!~

KUMANOMORI(くまのもり)

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 事件のことは家族に知られることになったけれど、大げさにしないで欲しいと親を通して学校に言ったら、学校では個人名は伏せた形での注意喚起に留まった。
 私の両親は甲斐に感謝していたけれど、甲斐の表情は暗い。

 事件の日から甲斐は私を避けるようになったし、声をかけても、軽い返事をするだけで、笑いかけてはくれなくなる。甲斐と一緒に帰ることはなくなり、話す機会も減った。

 きっと思い出すのもいやなんだろうな、と私は思う。甲斐は私が死ぬ度に、事故や事故のニュースを目撃しなければいけなかったのだ。気分がいいものじゃない。
 今回はそこに自分も巻きこまれたのだから、より不快感は強かったと思う。甲斐に距離を取られたのは悲しいけれど、仕方ないと思った。

 そのうちに甲斐が誰かと付き合っているとか、誰と急接近しているとか、色んな噂を周りの友達から聞くようになる。

 甲斐にある噂の出どころの一つは工藤だ。
「なんか最近、甲斐のディフェンス薄いな。チャンスだし告っていい?」
 と言って、付き合ってくれと言われた。この工藤とは、恋バナの話もマンマークの話もしていない。

 ただ、以前甲斐に話を聞いていたから、工藤がどんな目線で私が気になっていたのかは知っていた。だから、一緒に勉強する付き合いならいいよ、と言ってみる。
 工藤は少し迷ったような顔をしていたけれど、「それってOKってことなんだよな?」と確認してきたので、頷いた。


 そしたらなぜか、数日後に、甲斐や他の男女を含めて、勉強会を甲斐の家ですることになった。隣のクラスの由比島さんや由比島さんの友達、そして甲斐や工藤の友達が集まる。
 甲斐の家に行ったけれど、ドアを開けてくれた甲斐の視線を浴びたとたんに、来たのは間違いだったと思った。

「よ、どうぞ」
 と言ってくれるけれど、一瞬私の目を見た甲斐はやっぱり暗い目をしていて、すぐに逸らすのだ。

 一方で甲斐は他の友達や工藤、そして女の子とは気軽に話している。由比島さんと甲斐は最近急接近している、と工藤が言っていた気もした。たしかに甲斐は由比島さんとは軽口も叩くし、笑いもする。私とはもうしてくれなくなったことだ。
 好きな子に甲斐がどんな風にしていてもいいと思ったけれど、それは自分にもフランクに接してくれていたからなんだな、と気づいた。
 私を避ける甲斐が、他の子と仲良くしているのを見るのは割と辛い。見ているのがだんだん辛くなったので、
「お疲れ、みんな。今日は買い物行きたいし、そろそろ失礼するね」
 と言って私は先にあがることにした。

 玄関まで追って来た工藤が、「悪い、メンバー悪かった?」と気にして来たので、「大丈夫、本当に用事だから」と言って帰ることにする。工藤もいい奴だ。でも、やっぱりまだ、私自身の心の整理がついていない。




 私は甲斐の家を出て、買い物には行かずに神社に行くことにした。石段を登っていく。何度となく引き戻されるこの神社には、小さい頃にも来たことがある。お祭りかなんかだったかもしれない。甲斐と一緒にこの神社に来たことがあったように思う。

 甲斐とずっと一緒にいられますように。
 甲斐の言っていた望みの話はきっと本物だ。私はただ、甲斐と仲良くしていられれば良かった。

 でも、あの日、条件をクリアするために、甲斐は傷ついたのだと思う。

 覚えている。
 甲斐の熱い息や皮膚の感触を。言葉や手の運び方も、みんなみんな覚えている。
 きっと甲斐も覚えていると思う。

 だから甲斐が私を避けるのは当然で、今はもう、気軽に手を繋ぐことが出来るかどうかも、難しい。
 あの日を境に、私たちの関係は変わってしまったのだろう。
 私はただ、甲斐と楽しくいられれば良かっただけなのに。

 
 木々が風に揺れる。
 風に髪がもてあそばれて、視線を向けたら、甲斐が石段を登って来るのが見えた。

 なんで?
 足元を見ていた視線をこちらに向けて、甲斐も驚いた顔をしていた。

「なんで、買い物じゃねぇーじゃん」
 と甲斐も同じ感想を漏らす。
 甲斐がこっちに近づいてくるに連れて、妙に居心地が悪くなってきた。胃の辺りがざわざわとするのだ。

「ごめん、去るわ」
 すれ違おうとしたら、腕を掴まれた。触れられるとそこから、ジュワっと熱くなる。
「避けすぎ」
「どっちが」
「篤紀の奴、へなちょこすぎ。ここへ来て、なんでグループ勉強だよ」
「私が言ったんだもん、勉強するならいいって。巻き込んでゴメン、もうないから。離して」
「一個聞かせて。これ、どう感じる?細かく言ってくんない」
 掴んでいる私の腕と自分の手の方を、甲斐が顎でしゃくってみせる。

 意図は見えなかったけれど、離してもらいたくて、素直な感想を言う。
「なんか熱い。で、恥ずかしい」
「やだ?」
 首を横に振る。
 イヤじゃない。その瞬間、暗かった甲斐の目に光りが生まれた。そして、手を離してくれた。
「ごめん、甲斐はいやだったんだよね、だから最近避けてる」
「は?」
「なのに今日も、私に会っちゃって、サイアクでしょ」
 私がそう言ったら、ちがう、と短く言った。
 そして甲斐はため息をついてから話しはじめる。

「ダメって分かってる。アイツらと同じことしてるから。あの日、多分美玖はもう一度死んだかってくらいイヤだったと思う。でもオレは違った。もっともっと、美玖に触れたくなった。近づいたら、きっと触りたくなる。そんだけなんだよ」
「それって、死んだ私への同情?辛うじて私がアリだから?」
 甲斐は首を横に振る。

「一番最初美玖が死んだ前の日。なんで、アリって言ったんだろって、何回も思ってた。そうじゃねぇだろって、好きだって言えばよかったって」
 驚いて息がとまるかと思った。
 でも、辛うじてツッコミを入れるくらいの余裕はあったようだ。
「また、勢いで言ってる」
 甲斐が私のことを好き?そんなことありえない、と思う。
「言うと思った」
 甲斐は肩をすくめてみせる。

「いっぱいあるうちの好きの一つでしょ?」
「ああ、美玖は、オレを遊び人にしたいらしいから」
「だって、甲斐の好みって。胸が、その」
 前に甲斐のスマホで見た、どこかのサイトのサムネイルを思い出すとどう考えても私とは繋がらない。

 私が指摘したら、気まずそうにして甲斐は頭を掻く。
「あー、バカ、あれは代替じゃん」
「だいたい?知らないそんなの。そういう世界と私をくっつけないで欲しかった」
「知ってる。だから、基本は話、しなかっただろ」
「じゃあ、今話してみてもいいよ」
「あんなの暇つぶし。好きな子といたら、触れたい触れつくしたい、それだけだ」
 甲斐と目が合う。暗い目はしていない。
 その代わり、眼差しに熱がこもっていて驚いた。

 好きな子?
 そんなの、私に向けられる言葉じゃない、と思う。でも甲斐が、
「早くに全部もらっとけばよかった。先輩に美玖のキスやらなくてすんだのに。アイツらに触れさせないですんだのに」
 恥ずかしいくらいに真っすぐ見つめてくるので、熱量に負けそうになって、つい意地悪を言いたくなる。

「甲斐にだって、あげてない」
「いや、もらった。事実は粛々と受けとめろよ」
「なに、しゅくしゅくって」
「美玖が好き。でも、まだ答えはいらない」
 そう言って甲斐は手を差し出してくる。

 帰ろ、と言うのだ。恥ずかしくて目が見れない。
 なに、この甲斐は?
 このルールに巻き込まれてから、甲斐は着実におかしくなっている。

「いや、でも。工藤とかは?」
「アイツらはどっか遊び行った」
 そう言って私の顔を伺う。
「うち来る?」
「言うと思った」
「いい?」
「それ、裏を読んで答えろって言うなら、答えない」
「なに想像してんだよ、エッチ。ゲームしよ」
 私は甲斐をじろっと睨む。

 誰が連想させるような流れを作ったんだよ、と言いたかった。
 いいよ、と言ったら手を引かれて、甲斐の家に行く。
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