love or die~死亡フラグ回避には恋愛があり得ないカレと×××せよ!~

KUMANOMORI(くまのもり)

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受難のはじまり

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 私は幼なじみの甲斐とは、絶対に、恋愛関係にはならない自信があった。
 秋津甲斐(あきつ かい)とは親同士や兄弟も知り合っていて、幼少期の友達も共有していて、学校も一緒だ。いわゆる幼なじみって奴だ。

 私は甲斐のことを男としていいなと思ったことは一度もない。顔が好みとか、性格がどうとか以前に、甲斐の過去や中身を知りすぎていたので、好きになる相手にはミステリアスな部分が欲しい私としては、全く恋愛対象じゃないのだ。
 でも、甲斐は兄弟に近い存在だったし、気の置けない仲間や友達としては最適だった。

 高校生になってからも甲斐の家に行くことはあったし、部屋に行くこともある関係だったので、知りたくもないけれど、甲斐の好みを知ってしまっている。

 ときどき、スリープになる前のスマホの画面に表示されたそれを見て、ああ、とため息をつく。知りたくもないけれど、隠してもらうのも、知らんぷりするのも変なので、
「甲斐の趣味って、男性基準で標準的なの?」と聞いて、「見るなよ、エッチ」と言われる。「トレンドがあるもんなんだよ」と言われて、「へぇ」と答えて、会話終了。
 恋愛対象じゃないから、別に甲斐がどんな好みでもいいし、どんな女の子が好きだろうと、関係ない。深入りしないし、こだわる必要もないと思っている。

 周りがだんだんと男女間での慎みと持ち始めて、付き合うか付き合わないかと意識し始める中でも、甲斐とは関係なく一緒にいられると思っていたのだ。

 だからこそ、遊ぶ約束をしていたのに除け者にされたとき、もう、仲間として遊ぶのは無理かもしれない、と思った。
 週末自宅に自分から呼び寄せておきながら、「美玖今日は無理、別の奴らと遊んどいて」と言われて、追い出された。
 そんなことが続き、しばらくしてから、学校で仲間内の雑談で甲斐が私のことを「アイツじゃたたない、ナイわ」といったふざけた話が耳に入ったとたんに、決定的に、ああ、この関係は遠ざけよう、と思ったのだ。

 教室の前を通りがかったときに、たまたま会話が耳に入った。途切れ途切れだったけれど、耳慣れた甲斐の声はつい拾ってしまう。
「美玖はナイわ、たたないって」
「でもズルくね?気軽に誘える距離感にいるって」
「佐久良アリだけどな」
「距離近いってのがホントに気軽だと思ってんの?お前ら、だからモテないんじゃね?」
「うっせぇ」
「美玖はナイ。オレはやりたいだけなら、楽なとこ行くわ」
「楽なとこって誰だよ」
 と周りがげらげら笑う。
「あ、けど。誰かタイプの子いれば、それとなーく繋いでやろっか?誰かいる?」
「マジで?」
 そんな流れだったから、聞くに堪えなくて途中で逃げた。他の男子が言っている分にはいいけれど、甲斐が私のことをそう言っているのは、イヤだったのだ。


 そういう対象として名前をあげられること自体が、正直不名誉だった。
 たまたま男女の幼なじみってだけなのに、中学の頃から好奇の目線を向けられる。気づいていたけれど、付き合ってるとか好きだとか、そんな話が出たときには、甲斐がしれッと流していて、どうでもいいって顔をしていた。
 どんな話があっても、甲斐が相手にしないでいれば、私もそれでよかったのに。

 アリかナシか?
 そういう話の中に、私を入れ込んできたこと自体に、嫌悪感があった。
 このまま一緒にいたら、ずっとセット扱いで、邪険にされつつ、周りからはいじられて、腐れ縁を維持しつづけることになる。そんな風になるのは、イヤだった。

 幸い、しばらくしてから部活で一緒の大和先輩と親しくなり、甲斐と過ごす時間は減る。部活のない週末に甲斐に誘われても断ることが増えたし、甲斐の仲間と関わる機会はもっと減った。
 いつだって甲斐の所在を口にしてきて私たちをニコイチでセット扱いしてくる奴らと距離を置いたことで、私も干渉を受けることなく、自由に人と付き合ってもいいことに気づく。

 そんなときに大和先輩から、「佐久良のこと、好きかもしれない」と言われて、人生で一番のワクワクを感じた。
だからその後、一時の感情に任せて、バカみたいなことを言い始めた甲斐に腹が立ったのだ。


 その日、久しぶりに「美玖一緒に帰ろう」「週末遊ぼう」と甲斐が言ってきた。
 放課後のうちクラスにやって来て、呼びに来るスタイルは、甲斐が結構前からやって来たものだ。それによって、私と甲斐の繋がりがクラスメイトに認知されてしまっていた。

 幼なじみだと知られてからは、男子からは中学の頃のようにいじられ、女子からは甲斐のことを聞かれる。
 秋津くんって好きな子いるのかな?付き合ってる子いるのかな?って。
甲斐に一度聞いてみたら、「うるせ、美玖に関係ねぇ」と言われたので、それからは聞くのをやめた。確かに甲斐が好きに付き合ったり遊んでいたりする分には、関係ないと思ったので、「気にした子がいたよ」と言っておくに留める。


 一緒に帰るのは了承して、部活終わりに体育館へ迎えに来た甲斐と話しながら帰る。前から言おうと思っていたことを、いい機会だから、と告げておくことにした。
 他の用事があるから、週末遊ぶのは無理だと言う。甲斐も別の友達と遊んでたほうがいいじゃない、と伝えた。
 甲斐も普段は部活の友達や、いい感じになっている女の子と散々過ごしていたはずなのに、私が断ったことで、そのときなぜか、変なスイッチが入ったらしい。


「そろそろ、ちゃんと付き合いたいんだけど」
 横並びで歩く状態で、前を見たまま、甲斐は言った。夕闇で表情はハッキリとは見えないけれど、少なくともからかってはいないようだ。
 とはいえ、口ぶりが、まるで前から考えていました、という風に聞こえたので、かえってバカにされている気分になる。なにそれ、と私は言った。
「約束とか優先しやすいじゃん」
 と甲斐が言うので、私はしばらく前に、甲斐のグループから邪険にされてきたことを思い出す。
「優先、何のために?こっちは断られまくり。仲間外れだったよ」
 と私が言うと、甲斐は、
「そんなことねぇよ」
 ぶっきらぼうに言う。

 甲斐のことが嫌いなわけじゃない。仲のいい知り合いであるのは事実だ。
 けれど、どんなことも、「身内だから、許してくれるよな」という感覚で言っているのであれば、正直ごめんだった。

「私好きな人がいるし、付き合う話も出ているから。そろそろ、子ども時代からはサヨナラかなって」
 と私は告げる。
 そのときの、甲斐の驚いた顔は見ものだった。え、と言葉を切り、そのまましばらく沈黙する。

「それにさ、近くにいるからって、私のことをアリとかナシとか。勝手に品評会されるの、ホントムカつくから。ナシだって知ってる。でもそれって、あえて言うこと?」
 私がそう言ったら甲斐の瞳の光が揺れたので、傷つけたのだと思った。一瞬間違った判断だったのかもしれない、と思う。
 でも、甲斐の部屋から追い出された経験もあるし、仲間内で貶されていた事実はある。こっちだって、ない、と突きつけたっていいはずだ。
「前に話が聞こえた。悪いけど、私も甲斐はないから。あんた達のいう、たつとかたたないとか以前に、こっちはキスとかも無理だから。高校になって、甲斐がクラスに誘いに来なければ、幼なじみだなんてバレなかったよ。いじられなくてすんだ。近くにいるからって、バカにするのやめてくんない?幼なじみって、そんな偉いわけ?」

 燻ぶっていた感情を吐き出したら、想像以上にきつい言い方になる。きっと、これには甲斐も喧嘩腰で返してくると想定していた。
 でも予想外に甲斐は冷静で、
「お前。たつとか、でかい声で言うなよ」
 と諫めるような声で言う。

 そして、
「今美玖のことがアリだって言ったら、何か変わる?」
 と返された。好奇心で光る明るい目が、こちらをじっと見ていて、私の反応を待っている。小さいときに面白いものを見つけたときに、じっと見つめるその目だ。

 アリだって言ったら?
 アリというのは、恋愛したり、もっと先の経験をしたりすることだ。
 先輩達から、「甲斐とやった?」と聞かれた中学時代のことを思い出す。
 その世界観自体が私からすれば、ナシだった。

「変わらない、甲斐は幼なじみで、一生幼なじみ」と私が言ったら、
「そっか、じゃあ仕方ない」
 と甲斐は言う。
 そのまま無言のままで歩いた後、家の前で別れる。

 おやすみ、とお互いに言って部屋に入った後で、私は大和先輩との約束を確認した。


 私はこうして幼なじみの甲斐を振り払い、大和先輩とデートすることになる。


 そして、翌日の初デートで事故に遭い私は死んだ。
 これが、私の受難のスタートだった。
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