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カエル化姫と最愛の人
久々の現場
しおりを挟む帰宅後はサロンの予約数が増え、忙しいこともあったこともあり、瑠璃也と一緒に過ごす時間が思うように取れなかった。
同じように瑠璃也も、メンズ美容製品の販売が順調で、さらにSNS経由でモデルの依頼が入って来ることも多いようだ。「最強夫婦」として、WEBメディア取材やインフルエンサーとのコラボ系の依頼も多かったけれど、瑠璃也と個人的な話をする時間が取れない。
そんな中で、静馬からは、サロンの提携や店舗数を増やす提案があった。
「サロン関係の付き合いなら、ありなんですよね?ちなみに瑠璃也には話つけてあります」
と言ってわざわざサロンまで来て、プレゼンしてくれる。
なぜこんなにグイグイくるのだろう?
何のメリットが?
と私は思うのでそのまま告げた。
そしたら、
「好きだから、勝手に応援したいだけです。推し活していたなら、その気持ち分かりますよね?」
と言われてしまい、二の句を告げない。
まさか推し活される側になるとは思わなかった。ただ、静馬がサロン関係に協力してくれるのなら、それはありがたいことだとは思う。
ママに会いに行ってから、私は家族の写真が頭から離れなくなっていた。いつか自分も家族を作れたら、という気持ちが高まっている。
そのためには、サロンの状況を安定させることも大切かもしれない、と思った。静馬がしばしば払う力の話をしてくることもあって、警戒心はあったけれど、サロンを安定させるためにも、静馬の提案を受け入れることに決める。
その後古民家サロンに顔を出したり、新しい店舗の場所を確認しに行ったりしていたら、ますます忙しくなった。
瑠璃也とは軽いメッセージのやり取りをする程度で、会えてはいない。瑠璃也は学校も仕事もと忙しいようだ。同時に私自身も忙しいので、会えないこと自体はそれほど問題視していなかった。
瑠璃也が紙媒体のメディアに登場したら、必ず複数買うし、サイト類はブックマークやスクショで保管しておく。製品も購入してお客様に販促しておいた。元々推し活住民の私からすれば、メディアで触れるそれ自体で瑠璃也と一緒にいる気分だったので、満足している。
瑠璃也に関しては、現場に行ければ最高、接触できればもっと最高、という推し活のメンタルになりかけていた。
そんなある日、学校の空き時間に瑠璃也がサロンに来てくれる。ちょうど、蒼真が施術に来ていたときだったので、微妙な空気になった。
瑠璃也と蒼真がお互いに、「げ」とか、「うわ」とかと声をあげているのを見る。けれど、蒼真はお客様として来ているので、私はしっかりと送り出す。
「また来るわ」と言って去っていった蒼真は、最近調子がいいらしい。お父さんの残したお店や事業も安定してきているようだった。月に1回程度の間隔で身体のメンテナンスに来る。「なくなったらメンテできねぇし」と言って、サロン立ち退きの話は撤回すると言って来た。お得意様であり、お客様なので今の関係はとても気楽だ。
一方で、蒼真を送り出した後、カウンセリングルームで、「久しぶり白那」と言ってくる瑠璃也に向き合っていると、妙に緊張感が生まれた。
最近は推し活状態だったので、本物が登場したことで、急に向き合うのが恥ずかしい。距離感を掴むのが難しいので、
「今日はどうされましたか?」と言ってみる。
「白那が足りないから、来ました」
と瑠璃也が言ったので、その顔を見た。
最高に好きな顔が目の前にいて、じっと見つめてしまう。
「カッコイイ。久々の現場」と呟いたら、「何それ」と言われてしまった。
更に、瑠璃也が近くに寄ってきて、
「ハグしていい?」
と言ってきたので、胸が苦しくなって首を振る。そして、椅子を引いて距離を取ってしまうのだ。瑠璃也が不服な顔をするのが分かった。
「ここじゃちょっと」と言ったら、「じゃあ夜家言ってもいい?」と言われたので、それにはOKした。
夜私の家にやって来た瑠璃也はいつになく疲れている様子だった。聞けば、あの後撮影やインタビューの仕事があったようだ。
「ヘアメイクとかフィッティングとかだとしても、女の人に触れられるの苦手なんだよね」
と瑠璃也は言う。
「少し休んでていいよ」と言うと、瑠璃也はいい、と言い、それよりも私のママやパパの話が聞きたいというのだった。
といっても、話をしている間にもそれぞれのスマホには連絡が来て、ゆっくりと時間が取れない。
新しいサロンに関して連絡が来たタイミングで、私のスマホケースから何かが落ちる。
私は気にせずに内容をチェックしていたけれど、瑠璃也が何かを拾いあげていた。
「え」
と小さな声をあげる瑠璃也に気づいて、私はそちらの方を見る。
瑠璃也が拾いあげたのは、一枚の写真だ。げ、と喉の奥で声をあげてしまう。
何も後ろめたいことはないはずなのに、一見すると後ろめたい要素になってしまうことに関しては、ママに対して異議があった。
「それは、その」
話の途中だったので、どう切り込んでいいのかは分からない。
「結局、白那はそこなのかって思ったんだけど」
瑠璃也は写真と私の顔を交互に見て、表情を変えずに言う。冷えた眼差しでこちらを見ているので、いつになく余裕がないのを感じた。さすがの瑠璃也も、学校に仕事にと動いていて疲れているんだと思う。
「違うよ、瑠璃也何か誤解してる」
「今日来てたじゃん」
「来てはいたけど、お客様としてだし。そうじゃないよ」
「結局、白那はあいつが一番好きってことなんじゃない。写真持ってるってことは、忘れられないってことじゃん」
「いやそうじゃなくて」
瑠璃也が言いたいことは、非常によく分かった。分かったけれど、それは間違っていると切に言いたい。
「顔が先じゃなくて、好きが先ならそっちの方が重い。俺は結局叶わないってことなのかなって」
瑠璃也が勝手に深刻な調子になっていくことには、違和感しかない。
「えっと、それは。どっちが重いかとかは分からないけど。でも、これに関しては違うから」
「だってどう見ても、これ」
瑠璃也が指で挟んでみている写真に写っているのは、やんちゃな表情が似合う若い男性だ。上がり眉に、色素の薄い瞳、そして笑いを浮かべた明るい表情。一見、それはよく知っている人のように見える。けれど、それは正しくない。
「その人は、私のパパなんだよ」
私の言葉に瑠璃也が唖然とする。口がポカンと空いているのだけれど、そんな驚いた顔もカッコいいな、と思った。久しぶりに会ったせいか、どんな表情にもときめいてしまう。
「いや。どうして白那のお父さんが?」
「ママの好みの顔らしいよ。ママにとっての超絶イケメンなんだもん。異議はあるけど、仕方ないよね。だって水樹家の女の人は、最高に好きな顔の人とじゃないと……」
「白那はお父さんが……。そんなバカなこと」
瑠璃也は嘘だと言って欲しい、と言う目でこちらを見てくるけれど、
「受け入れて、パパだよ」
と私が力強く念を押すと、
「うわ、それって結構キツイなぁ」
と瑠璃也は頭を抱える。
瑠璃也が動揺するのは無理もない。だって、写真に写っているパパは、蒼真にそっくりなのだから。私もかなり驚いた。
パパが蒼真に似ているとして、ママの好みの顔がこの顔ならば、サロンの出資者である蒼真のお父さんは蒼真に似ているのかもしれない。蒼真がサロンのアルバイトに来たのを受け入れたのは、ママにとって顔が云々。などなど、ママの過去を想像すると複雑な思いが渦巻いてしまうので、今は思考停止にしておく。
動揺している瑠璃也を取りなすために、
「とにかく!あくまでもパパはママの好みだから。で、そのパパのお姉さんが、○○市にいて」
と話をしていく。
けれど、その間にもスマホの通知があり、瑠璃也はスマホの電源を切った。
「いいの?」
と私が聞けば、瑠璃也は頷く。
「白那の話を聞かせて」というのだった。
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