35 / 40
偽俺様王子の婚前活動
手紙の効果
しおりを挟む公園に移動して、日陰のあるベンチに横並びに座る。白那が表情を変えながら朱那さんの手紙を読んでいるのを見守りつつ、待っていた。
朱那さんが白那の誕生日に届くように手紙を出したのだろうか?
たしかに、郵便物の到着日時を指定できるサービスもあるようだけれど、誰かが朱那さんに頼まれて手紙を投函した可能性もある。消印に刻まれていた郵便局は、見慣れない土地の名前だった。
読み終わった白那はなぜか俺の顔をじっと見てくる。そしてじっと見つめて来てから、初めて会ったときのように、顔に手を当ててくるのだ。
「白那?」
「私のも、遺伝子レベルだったみたい」
遺伝子レベルとは一体?と思っていたら、白那が顔のパーツを丹念に触って来る。正直、戸惑うのは否めない。
「触りすぎだよ」
思わず口にしたら、ゴメンと言って触れていた手を離した。でも、視線はそのままこちらに向いたまま、
「私の全部あげるから、瑠璃也の全部くれる?」
と言うのだ。
どこかで聞いたような言葉を白那が口にしたので驚いた。前に俺が感覚的に口走った言葉だと思う。深く考えていたわけじゃないけれど、どうにかして距離をつめようとしたときに、口にしていたようだった。
手紙の中に、その言葉を思い出させる何かがあったんだろうか?と思う。いずれにしても、俺の心は決まっているので、返事は決まっていた。
「当たり前じゃん」
と言ったら、白那はなぜか泣きそうな顔になる。
「できれば、幻滅しないでほしいな。瑠璃也に期待外れって言われたら、多分もう立ち直れないから」
推したちはともかく、蒼真が言ったことだとすれば、それは本心じゃないと思う。幼稚な愛情表現だ。でも、白那を傷つけたのは本当だし、俺個人が貶し系の愛情表現は嫌いなので、あいつのフォローはしてやらない。
「幻滅はない。それに意外にも色んな人に応援されているんだ。俺は元々白那を離すつもりないんだよ。心だけは白那次第だから、ずっと片思いだったけど」
「両想いだよ、もう」
念を押してくる白那にキュンとする。
「うん」
「私が瑠璃也の指輪するね。だから、瑠璃也は私の用意してくれると嬉しいな」
白那の提案に、俺は言葉を失う。
白那の中で何が進行しているのか、分からない。さっきまで俺の感覚がとか、規格がどうとか言っていたのに。
朱那さんの手紙が何かのフックになったのだろうか?
白那はときどきこうして、急にギュッと距離を詰めてくるので、心の準備ができないときがある。
「学生じゃダメって、さっきまで言ってなかったっけ」
「学生結婚するイケメン起業家ってかっこいいかなって」
「白那やっぱおかしい。何が書いてあった?」
つい詰め気味に聞いてしまうと、白那は恥ずかしそうな顔をする。なに?と聞くと、首を横に振るのだ。ここでは言いにくい話だから、と言うのだ。
「けど、私、瑠璃也しか無理かもしれないから。その。言いにくい遺伝があって」
「言いにくい遺伝?」
俺しか無理という言い方も、歯切れが悪いので、逆に気になってしまう。
「瑠璃也が心変わりしちゃう前に、ゲットしちゃおうかなって」
曖昧な言い方をする白那をつい問い詰めてしまいたくなる。ぐいぐいと聞いていくと、ようやく耳元で教えてくれた。
思わず息を飲んでしまう。
散歩やランニングをしている人たちや、散策を楽しんでいる人たちの目の前で、する話じゃないのはたしかだ。
聞いてしまって、少し後悔する。唇を噛んで恥ずかしそうにしている白那を見ると、この先、健全なデートが続けられる自信がなくなるからだ。
「ところで、朱那さんの居場所のヒントはあった?」
と話題を変えてはみるし、白那もその話をし始めてはくれるけれど、一度お互いに気づいてしまった妙な雰囲気を払うのは難しかった。
その後街歩きをするけれど、早々に白那の方がギブアップ宣言をしてきて、「お酒飲みたい、今日は素面で瑠璃也といるのは無理」と言われる。
「ママとよく行ってたバルでいい?」と言われて、連れていってもらうのだけれど、俺自身はそんなにアルコールは得意じゃない。
最初はゆっくりと飲んでいたのに、その後白那のペースに巻き込まれていたら、どんどんアルコールが回ってくる。
気づいたら、自宅のベッドの上にいた。強い脱力感があったので、リビングに行って水を飲んでいたら、シャワーを浴びてきたらしい白那がやって来る。
俺の顔を見るや否や、若干逃げ腰になる白那を見て、何かをやらかしたことを察した。
何かあった?と聞いて、白那が不服そうにして苦情や申し立てをしてくるまで、自分の失態を知らないままだったのだ。
アルコールの力を借りて、下品な遺伝子が炸裂したと知る。
「瑠璃也とお酒飲むの、しばらくやめる」と言われてしまった。
とはいえ、記憶がまったくないので、ルームウェアから覗く、白那の首元や腕、脚に散見する痕を見て、妙な嫉妬心が湧いてきてしまう。
「もうダメ?」と聞いたら、
「もう無理!」と言って白那は部屋に逃げていってしまった。
婚約破棄の危機?と思う。
誕生日にプレゼントもなく、この失態は最悪なんじゃないか?と思った。
けれど、間もなく「一緒にいてくれてありがとう。嬉しい誕生日だったよ。おやすみなさい」とメッセージを送ってきて、大人な対応をする白那を見て、俺は禁酒を誓った。
もし言い訳させてもらえるなら、あの白那の発言がなければ、こんなにグズグズに崩れてはいないはずだ。
朱那さんの手紙には一体どんな内容が書かれていたんだろう?と思う。
白那が急に結婚に前向きになるようなことが書かれていたんだろうか?
いずれにしても、朱那さんにお墨付きをもらったから、俺たちはここまで来れたのだと思う。
俺の完全な片思いから、両想いになれた。
だからこそ、朱那さんに挨拶に行くそのときは、白那と本当の意味で結ばれるときであって欲しい、と思うのだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる