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偽俺様王子の婚前活動

手紙の効果

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 公園に移動して、日陰のあるベンチに横並びに座る。白那が表情を変えながら朱那さんの手紙を読んでいるのを見守りつつ、待っていた。
 朱那さんが白那の誕生日に届くように手紙を出したのだろうか?
 たしかに、郵便物の到着日時を指定できるサービスもあるようだけれど、誰かが朱那さんに頼まれて手紙を投函した可能性もある。消印に刻まれていた郵便局は、見慣れない土地の名前だった。

 読み終わった白那はなぜか俺の顔をじっと見てくる。そしてじっと見つめて来てから、初めて会ったときのように、顔に手を当ててくるのだ。

「白那?」

「私のも、遺伝子レベルだったみたい」
 遺伝子レベルとは一体?と思っていたら、白那が顔のパーツを丹念に触って来る。正直、戸惑うのは否めない。

「触りすぎだよ」
 思わず口にしたら、ゴメンと言って触れていた手を離した。でも、視線はそのままこちらに向いたまま、

「私の全部あげるから、瑠璃也の全部くれる?」
 と言うのだ。

 どこかで聞いたような言葉を白那が口にしたので驚いた。前に俺が感覚的に口走った言葉だと思う。深く考えていたわけじゃないけれど、どうにかして距離をつめようとしたときに、口にしていたようだった。

 手紙の中に、その言葉を思い出させる何かがあったんだろうか?と思う。いずれにしても、俺の心は決まっているので、返事は決まっていた。

「当たり前じゃん」
 と言ったら、白那はなぜか泣きそうな顔になる。

「できれば、幻滅しないでほしいな。瑠璃也に期待外れって言われたら、多分もう立ち直れないから」

 推したちはともかく、蒼真が言ったことだとすれば、それは本心じゃないと思う。幼稚な愛情表現だ。でも、白那を傷つけたのは本当だし、俺個人が貶し系の愛情表現は嫌いなので、あいつのフォローはしてやらない。

「幻滅はない。それに意外にも色んな人に応援されているんだ。俺は元々白那を離すつもりないんだよ。心だけは白那次第だから、ずっと片思いだったけど」

「両想いだよ、もう」
 念を押してくる白那にキュンとする。

「うん」

「私が瑠璃也の指輪するね。だから、瑠璃也は私の用意してくれると嬉しいな」
 白那の提案に、俺は言葉を失う。

 白那の中で何が進行しているのか、分からない。さっきまで俺の感覚がとか、規格がどうとか言っていたのに。
 朱那さんの手紙が何かのフックになったのだろうか?
 白那はときどきこうして、急にギュッと距離を詰めてくるので、心の準備ができないときがある。

「学生じゃダメって、さっきまで言ってなかったっけ」

「学生結婚するイケメン起業家ってかっこいいかなって」

「白那やっぱおかしい。何が書いてあった?」
 つい詰め気味に聞いてしまうと、白那は恥ずかしそうな顔をする。なに?と聞くと、首を横に振るのだ。ここでは言いにくい話だから、と言うのだ。

「けど、私、瑠璃也しか無理かもしれないから。その。言いにくい遺伝があって」

「言いにくい遺伝?」
 俺しか無理という言い方も、歯切れが悪いので、逆に気になってしまう。

「瑠璃也が心変わりしちゃう前に、ゲットしちゃおうかなって」
 曖昧な言い方をする白那をつい問い詰めてしまいたくなる。ぐいぐいと聞いていくと、ようやく耳元で教えてくれた。
 思わず息を飲んでしまう。
 散歩やランニングをしている人たちや、散策を楽しんでいる人たちの目の前で、する話じゃないのはたしかだ。

 聞いてしまって、少し後悔する。唇を噛んで恥ずかしそうにしている白那を見ると、この先、健全なデートが続けられる自信がなくなるからだ。

「ところで、朱那さんの居場所のヒントはあった?」
 と話題を変えてはみるし、白那もその話をし始めてはくれるけれど、一度お互いに気づいてしまった妙な雰囲気を払うのは難しかった。
 その後街歩きをするけれど、早々に白那の方がギブアップ宣言をしてきて、「お酒飲みたい、今日は素面で瑠璃也といるのは無理」と言われる。

「ママとよく行ってたバルでいい?」と言われて、連れていってもらうのだけれど、俺自身はそんなにアルコールは得意じゃない。


 最初はゆっくりと飲んでいたのに、その後白那のペースに巻き込まれていたら、どんどんアルコールが回ってくる。
 気づいたら、自宅のベッドの上にいた。強い脱力感があったので、リビングに行って水を飲んでいたら、シャワーを浴びてきたらしい白那がやって来る。
 俺の顔を見るや否や、若干逃げ腰になる白那を見て、何かをやらかしたことを察した。

 何かあった?と聞いて、白那が不服そうにして苦情や申し立てをしてくるまで、自分の失態を知らないままだったのだ。
 アルコールの力を借りて、下品な遺伝子が炸裂したと知る。

「瑠璃也とお酒飲むの、しばらくやめる」と言われてしまった。
 とはいえ、記憶がまったくないので、ルームウェアから覗く、白那の首元や腕、脚に散見する痕を見て、妙な嫉妬心が湧いてきてしまう。

「もうダメ?」と聞いたら、
「もう無理!」と言って白那は部屋に逃げていってしまった。

 婚約破棄の危機?と思う。
 誕生日にプレゼントもなく、この失態は最悪なんじゃないか?と思った。

 けれど、間もなく「一緒にいてくれてありがとう。嬉しい誕生日だったよ。おやすみなさい」とメッセージを送ってきて、大人な対応をする白那を見て、俺は禁酒を誓った。

 もし言い訳させてもらえるなら、あの白那の発言がなければ、こんなにグズグズに崩れてはいないはずだ。
 朱那さんの手紙には一体どんな内容が書かれていたんだろう?と思う。
 白那が急に結婚に前向きになるようなことが書かれていたんだろうか?


 いずれにしても、朱那さんにお墨付きをもらったから、俺たちはここまで来れたのだと思う。
 俺の完全な片思いから、両想いになれた。
 
 だからこそ、朱那さんに挨拶に行くそのときは、白那と本当の意味で結ばれるときであって欲しい、と思うのだ。
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