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偽俺様王子の婚前活動

最強商法

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「落せない推しメンはいない、最強美女セラピスト・水樹白那」×「その優しさにメンタル崩壊の沼落ち、最強ビジュアル大学生実業家・紫陽瑠璃也」
 最強夫婦ユニットといって、SNSのアカウント用に、彰文に煽り文句をつけてもらう。

「最強ってつけるの好きだな、彰文」というのが率直な感想だ。ただ、白那はともかく、俺に関しては、「どこがだよ、ねぇよ、寒」と反感を買うくらいがいいと思っているので、ちょうどいい。

 兄にはいくつか記事をあげてもらって、SNSや自社サイトのリンクを貼ってもらう。
 記事内容に関してはどんなものでもいいし、フックがあればいいと言ったら、白那の推し活動歴やアカウントがずらりと並び、中に静馬の名前を入れ込む記事が完成した。

 婚前最後の推し活で、落とされたイケメンlive配信者、と書かれ若干静馬が気の毒になる。白那の過去の推しメンには、今ではかなり有名になっているタレントや選手、アーティストもいた。


 更に兄の知り合いのカメラマンに依頼して、ビジュアルコンテンツを作りWEBページを拡張していった。写真と動画を組み合わせてSNSで運用する。
どんな人たちがやっているどんなサービスなのかを、より分かりやすく見せるために、ビジュアルコンテンツを増やしたのだ。システム面は兄に丸投げした。

 とどめには、白那が元々持っていた推し活アカウントからも、サロンへの流入を狙うことにする。「身バレはイヤだったけど、推し活は引退気味だから、ちょうどいいかも」といって受け入れてくれた。


 俺は自社商品の販売、白那はサロンの集客をメインにアカウントを運用する予定だ。白那の了承が得られたので、今後は俺の事業や母の事業とサロン事業を提携させることも考えている。

 各SNS上で、これまで俺の名前や写真を使って書かれてきた勝手な投稿へリプライを送って、広めていく。これまで散々勝手に、使われていた名前がここでようやく生きてくるようだった。とはいえ、自分の名前や写真の投稿にこれっぽっちも興味はないので、この作業は会社のスタッフに丸投げだ。

 メディア露出は、個人的にはかなり微妙で、正直一番苦手とする売り方だけれど、これしか静馬と正面から闘う方法は思い浮かばなかった。
 ただサロンのサイトやSNSの投稿に使っている白那の写真や動画は、俺からすれば女神レベルなので、白那目当てのお客さんが増えることが想定される。
 ゆえに夫婦売りにして、面倒なお客さんは避け、同時に静馬ファンをとことん圧倒して火消しをしてしまうのが狙いだ。

 キス写真はビジュアル面でのインパクトが強いので、白那へのネガティブキャンペーンは根強く続いているけれど、ファン心理を重視する白那は、そんなに落ち込んでいない。
 逆に、「日埜くんの売り出し方に異議がある。瑠璃也とビズネスBLしたほうが」と言い続けているくらいだ。俺からすれば、絶対にイヤだけれど。

 俺としてはあの写真を一刻も早く削除して欲しいと思っている。とはいえアングルといい、上手く瞬間をとらえている点と言い、静馬もまたプロに仕事をさせたに違いない。
 何より白那の表情が綺麗すぎたので、静馬を上手く消して自分に差し替えた写真をスタッフに作ってもらった。白那はかなり引いていたけれど、個人保存用なので許してもらうつもりだ。

 静馬は、俺に対抗するつもりで、まんまと白那に落とされたに違いない。
 今回の動きで静馬がどう出てくるのか気になった。ただ、想像以上に奴のレスポンスは早かった上に、予想外の方向にかじ取りをし始めることになる。

 
 サイトやSNS周りの刷新をして間もなく、静馬から連絡が来た。
 久しぶりに連絡をしてきた静馬は、出し抜けに「水樹さんのサロンと提携したい」と言ってくるのだ。配信のアーカイブは削除したし、訂正配信も既にしたという。

 訂正配信のアーカイブを見たら、兄の記事に準拠しているがごとく、「最強セラピストに落とされました。彼女じゃなかったです、女神でした」とバカなことを言っているので正気を疑う。

「白那に落されて、おかしくなったわけ?」
 と聞いてみれば、
「急に訳の分からないアカウント作り始めた瑠璃也に言われたくない。おかしくなったのはどっち」
 と言われた。それに関しては、もっともだ。

 とはいえ、日埜家経営のサロンとの提携は、白那のサロンの知名度をあげるためには、たしかに利用できる。ただ白那いわく、お客さんの不調度合いが強いらしく、施術に苦労するとは言っていた。
「白那にとってのメリットは?」

「顧客の共有と、知名度を上げること。それに、水樹さんには俺を雇って欲しいんだ」
 衝撃的な発言が出てきたので、驚いた。その発想が俺にはなかったからだ。

「施術で関わるのは許してくれるらしいから」と殊勝なことを言う。更に「本気で好きだと、どんな形でもそばにいたくなる」と静馬が真面目な話をしだすので、
「詳しい話は、白那本人と話してみれば」
 と俺はいうほかない。
 静馬が対抗意識とか、これまでの恨みつらみとかを口にしなくなったのが、不思議だった。
 きっと白那の影響なのだと思う。


 白那は繋がりができた相手の心を掴むのが上手い。白那は美亜も蒼真も顧客にしてしまったようで、二人ともサロンに足を運び始めたらしい。美亜はともかく、デートDV予備軍の蒼真を飼いならしてしまったのは、かなりの手腕だと思う。

 白那は「全部瑠璃也のおかげだよ、蒼真に向き合うのはこれまでの私じゃ無理だった」と言ってくれる。

 けれど、俺からすれば初対面で俺の性格を見抜いて、すっかり心を開かせてしまった朱那さんの才能を、白那にも感じずにはいられない。
 白那は水樹家の力云々より先に、朱那さんの力をしっかり引き継いでいた。
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