カエル化姫は愛されたい、偽俺様王子は愛したい~推し活女子と天然モテ一途男子は最強夫婦~

KUMANOMORI(くまのもり)

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カエル化姫と好きな人

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 静馬のファンの動きは速かった。一晩のうちに、ネット上のネガティブキャンペーンにより、私の情報は漏れに漏れ、名前やサロンの情報が出回る。
 以前の瑠璃也から聞いたネット記事から、情報を得た人がいるようだ。個人の推し活アカウントは、本名じゃないから無傷だけれど、サロンのホームページや告知用のSNSが荒れてくるのは困った。

 とはいえ、静馬がここまでリアルで恋しちゃう系のファンをゲットしているのは、純粋に凄いと思う。感心していたら、瑠璃也には「危機感を持ったほうがいい」と諫められた。更に、一人では出かけない方がいいと言われるのだ。

 その日の朝、学校前に家に来た瑠璃也が、「あいつマジでふざけている。連絡も取れないし」と言っているのを見て、私も静馬に連絡を入れてみる。

「あの配信、キャラブレヤバくないですか?」と言ってみたら、すぐに返信が来た。

「まったく刺さらなかった感じですか?」

「刺さらないんじゃないですか?ガチ恋勢ならたぶん、担降りですよね」
 と送れば、

「今日会えませんか?そしたら、アーカイブ削除して、訂正配信します」
 と言われた。

 瑠璃也に伝えたら、
「絶対に行かないほうがいい、今日はサロンの仕事だけしていたほうがいい」と言われる。
 更に、心配だし今日は学校休む、と言ってくるのだけれど、課題提出や発表があるらしいので、行って来て、と強引に送り出した。

 
 朝のうちに、サロンの問い合わせホームにスパムメールやコメントが来たり、SNSに私の悪口がどんどん増えてきたりするのを見ていると、その過熱度合いに驚く。瑠璃也が前に、誤解させて警察沙汰になったと言っていたけれど、これもまた似たような種類の過熱をしていると思った。

 これまでの推し活経験もあり、SNS上で叩かれるのは意外に慣れている。それに施術のような気分で、返信をしていくと、叩き主は意外にクールダウンして、さらに友達になってくれることも多い。

 とはいえ今回は荒らしの全体量も多いし、お客様に害があったり迷惑がかかったりするのが一番の懸念だ。サロン周辺を荒らされるのだけはイヤだった。


 瑠璃也にはやめるよう言われていたけれど、予約外のお客様はお断りすることにして、時間を作り、静馬のところへ行くことにする。

 静馬が指定した古民家サロンに行ったら、その日は他のスタッフもお客さんもいなかった。
 受付に行くと静馬がいて、
「ありがとうございます、来てくれて」
 と言う。

「今日は施術の日じゃないんですね」と言うと、
「施術じゃなければ、水樹さんは来てくれないですしね」
 と静馬は言ってくるのだ。

「あの配信、キャラ的には失敗ですよ。きっと。削除してください」と私は単刀直入に言う。

「嫌だって言ったら、どうします?」
 静馬は思わせぶりな視線をこちらに送って来る。イヤな予感がした。個人的な経験では、施術じゃないプライベートな状態で、こうして男性と二人きりの空間にいるというのはあまりいい記憶がない。

「サロン周りの荒らしが困るんです。それさえないなら、問題ないんですけど」私は視線を逸らして淡々と告げる。

「問題ないんですか?」

「明らかな嘘だし。でも私は一般人なんで、個人名出されたのは、正直困ります」

「訂正配信するので。水樹さん、俺の彼女になってください」
 静馬の言葉にがっかりする。ここへきてまで、結局瑠璃也と張り合おうとしているのか、と感じたからだ。

「相変わらず、瑠璃也への愛が強いですね。リアコ売りやめて、瑠璃也と劣情系BLで売ったらどうですか?ビジュアル最強で、バズりそう」

「劣情系BL?」
 苛立ち紛れに適当に放った言葉なのに、静馬が生真面目に復唱するので少し困った。

「日埜くんにとっては私が瑠璃也の彼女だから、価値があるように見えるだけです。私に構っても、いいもの出てきませんよ。削除してください」
 私の言葉に、静馬は眉根を寄せた。

「瑠璃也が言っていたことが、少しだけ分かるのがイヤだな。その点だけは、血筋かもしれませんね」

「何言って」
 静馬の目は色素が薄く、柔らかな表情をしている。なぜそんなに目の表情がよく見えたのか。静馬の顔が近づき、私の唇に彼の唇が触れたからだ。ピリッと鋭い痺れが走り、身体を離そうとするのに、静馬の力で押さえつけられる。
 舌が入って来るのを感じ、ゾワゾワッと背筋に寒いものが走った。手で静馬の胸を推して、離す。

 結局、私は何も学習していないのかもしれない。思わせぶり?誘っている?
 そんな風に感じられるような行動をしたつもりはないのに。

「感情が動くと、征服したくなる。たしかに、そうだなって思います」
 もう一度キスされて、ツウっと身体が寒くなる。

「当てつけのために、こういうこと出来るんですね。最低」
 私が睨みつけると、静馬は眉根を寄せた。

「何言っても、きっと信じてくれないんですよね。でも、好きです水樹さん」
 抱きしめられると、ビリビリっと身体に電気が走り、痛みに身体が停止してしまう。痛い、と言えば、多少なりとも遠慮が出るらしく、静馬の表情は揺らぐ。

「好きなのに、痛いことするんですね。ひどい」
 と言ってみたら、静馬と目が合う。静馬は眉を下げて、
「ズルいな」と呟いて身体を離してくれた。

「帰ります。正直、ガッカリしました」
 静馬の方を見ることが出来なくなる。瑠璃也が疑っていたことをそのまま体現してしまう静馬に落胆したのは事実だ。

「じゃあ。どうしたら、いいんですか。水樹さんを好きになったら」
 私には静馬が瑠璃也への対抗心を私への好意だと勘違いしているように思えた。

「今までみたいに施術の協力なら、出来ます。今みたいなのは、絶対に嫌です」
 私はそう告げて、去ることにする。

 結局収穫はない。
 かえって被害を広げることになったと知ったのは、帰宅後に瑠璃也から連絡があったからだ。


 写真がSNS上に上がっているよ、と瑠璃也は言ってくる。静馬と私のツーショットだ。そ
 の写真を見て、私は息を飲んでしまう。まさに、唇が触れている瞬間を収めていた。

 ああ、罰が当たったんだ、と私は思う。
 瑠璃也の忠告を無視して行ったから、こうして瑠璃也を裏切ることになった、と。

 ごめん、とも、誤解だよ、とも言えない。完全に私の判断ミスだったからだ。

 SNS上の炎上にはさらに火を注ぐことになり、私の名前もまたビッチとして祭り上げられていた。サロンの予約も数件キャンセルになる。
 水樹家のことが知りたくて静馬に接触してから、私の行動はとことん裏目に出ているように思えた。
 ママのことを知りたいだけなのに、瑠璃也と一緒にいたいだけなのに。どうして上手くいかないんだろう、と思う。

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