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偽俺様王子の保護者活動
嫉妬の顛末
しおりを挟むその日、兄から送られてきたネットニュースのURLを見てみると、不思議な力を持つ美女というタイトルで書かれたニュースが出てきた。
「不思議な力を持つ女性がいて、触れられると疲れが取れる、痛かった場所が痛くなる」といった記事だ。
記者自身も施術を受けて、痛かった部分が痛くなくなったという内容だった。
記事の写真には、施術中の横顔や後ろ姿しか映っていなかったけれど、服装や髪型、横顔のシルエットからして、どう見ても白那だった。内容ではさらに、業界では有名な家柄と書かれている。
とはいえ、全体的にゴシップ色の強い記事で覆面調査のような内容のため、白那の柔らかい物腰や愛らしい顔立ちについて触れている他、「魅了されるほどのボディラインのやり手美女なので、ぜひサロンへ足を運んでみては」と結んでいる。
読者を煽るような書き方をしていた。サロンの名前や住所も掲載されている。白那はこの記事を知っているんだろうか?
気になったのは、写真の白那が施術を行っている場所が、サロンではないようだということだ。
配信元に問い合わせても、詳しいことはライター本人に問い合わせてみないと分からないとのことだった。
白那に聞けばいい、それだけのことだと思う。ただ付き合っている今、とことんまで追求して嫌われたら、もう別れしかない。
それがただただ怖いのだ。すっかり臆病風に吹かれている。
夜リビングに来ていた白那に、それとなく、
「こんなニュース出ていたけど、これ白那だよね?」と聞いてみる。
白那はPCの画面に出した記事を読んで、え、と驚きの声をあげた。
「こんなの知らない」
と言うのだ。
となれば、取材とは聞かされずに記事を書かれた可能性が高い。美女?これ見て来た人、絶対怒るよね、と白那は笑う。
俺が「美女だよ、偽りなし」と言えば、「嘘ばっか」と言って照れるので可愛い。
聞いていいのか迷いながら、これ、どこでやった施術?と聞いてみる。サロンじゃないように見えるから、と言ってみると、白那も少し躊躇ったようにしながら、
「知り合いの施術ルーム。協力してって言われていて」と言う。
「知り合い?」
「瑠璃也も知っている人って、彰文くんが言ってたんだけど」
「ああ」ため息が漏れてしまう。どう考えても、静馬だ。日埜静馬だね、と俺が言えば、白那は頷いた。
「私の力が必要だって言われて、手伝ったときもあって。この記事はそのときのだと思う」
「白那の力?」
「そう。私には具合の悪いところが見えるし、それを一時的に緩和させる力があるみたい。だから、日埜くんにはときどき協力してくれって言われることがある」
日埜くん、と白那は静馬のことを呼んでいるらしい。正直心は穏やかじゃなかった。さらに、白那が切り出した話題で、俺の心はより穏やかさを失う。
「あの。瑠璃也、少し話は変わるけど」
とおずおずと切り出した白那は、俺の目を見て、何やら話しにくそうにしながら、言う。
「瑠璃也にとって、どこからが浮気になる?」
と聞いてくるのだった。
「浮気?」
頭の中でその意味を理解するのに時間がかかる。
「浮気したの?」
と返すと、白那は顔を赤くして、多分してない、と言って顔の前で手を振る。
多分ってなんだよ?
「瑠璃也からしたら、何が浮気になるのかなって」
「それはそういう機会が近々想定されるって、匂わせに感じられるんだけど」
俺が言うと、白那に躊躇いが感じられた。何か言いたいようでいて、言えないような雰囲気だ。
「日埜くんのところに行くのは、浮気?」じっと見つめて聞いてくる。こういうときの白那は確信犯的でズルい。
「浮気じゃない」
「施術で身体に触れるのは?」
「もちろん、浮気じゃないよ」
「じゃあ、どんなのが浮気?」
と白那は聞く。白那がなんでこの話をするのか分からない。
じりじりと自分の中で小さな燻ぶりを感じる。静馬の存在が、白那の向こうに想像されるからかもしれない。
「静馬と、俺としたことと同じことをして、白那が同じかそれ以上感じてたら浮気。感じてなければ浮気じゃない」
苛立ちをこめた気持ちをそのまま口にしたら、白那の表情が固まった。
「日埜くんと、そんなことしてると思ったの?」
「思ってないよ」
そこまでしているとは思ってないけれど、正直を言えば、何もないとは思っていない。白那の様子がおかしいときは、大抵その裏には推しメンや元カレがいたのだから。
「私は身体が触れるレベルでも、浮気かもとか思うけど。瑠璃也からすれば、そこまでのレベルじゃなければ、浮気じゃないんだね」
白那の顔が急に暗くなる。白那の意図とは違う方向にかじ取りしてしまったようだ。しまった、と思ったときにはもう遅い。
「距離感バカでも、瑠璃也と付き合ってるのに日埜くんとそんな風にならないよ。たしかに、酔っぱらって前に瑠璃也に迫ったことあったみたいだけど。いつも誰にでもそんなことしてるわけじゃないよ」
「分かってるよ、ごめん。そういうつもりで言ったわけじゃない」
これは単なる嫉妬だし、問い質せない自分へのいら立ちだ。白那の顔に浮かんでいるのは落胆の色だった。
「感じてなければ、私が他の人としてもありなんだね。私は瑠璃也が他の人としてたら、いやだけど。瑠璃也が感じるとか以前の問題でいやだけどな」
白那はそう言って、ソファから立ち上がる。
今日はもう休むね、と言って、部屋に帰って行ってしまった。ヤバい、と思うけれど、かける言葉もない。追って事態を好転させる術もない。
翌朝白那がキャリーケースを持って出勤して行ったので、より危機感を覚える。
後で、「今まで保護してくれてありがとう」とメッセージが来て、本格的にまずい事態を招いたことに気づく。
こうして白那は家を出てしまったのだ。
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