カエル化姫は愛されたい、偽俺様王子は愛したい~推し活女子と天然モテ一途男子は最強夫婦~

KUMANOMORI(くまのもり)

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カエル化姫と好きだった人

破れた殻

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 蒼真は私と別れた後も、ママが不在の日を狙って、付き合っている彼女をサロンにわざわざ連れてきたり、私に彼氏なんかできるわけないと言ってきたり、毒のように言葉を浴びせて来ていた。
 今回みたいに、不意打ち出来て好き勝手していくことも、珍しくない。

 感じないなら、そしてセックスできないなら、私には価値がない。私は蒼真との経験によって、そう頭に刻まれたような気がする。

「したくなかった。今はもう私のこと好きでもないくせに、期待外れなのに、別れたのに。何で何回も来るの」

「白那の顔はマジでタイプだけど、当時はやれないとやっぱ無理だったし。けどさ、色々味見してくると、どうしてもやりたいとか、そんな重視しなくなるから。結局は好みの顔の方がいいなって」

「味見って何。好きで付き合ったんじゃないの」

 私がそう言ったら、
「好きじゃなくても、出来るじゃん。別に」
 少し不貞腐れたようにして蒼真は言った。

「最低」
 顔だけ好みだから会いに来た、権利のために自分と結婚すればいい、と言われても嬉しくなかった。自分が顔で推し活をしているのを棚に上げていると思うけれど。

「いいじゃん。俺まだ好きだよ、白那のこと」
 好きはおしまいの言葉だ。恋のおしまいで奉仕のはじまりの言葉。

 蒼真が強引に腿を割って、中心に指を差し込んできたので、痛みに腰が跳ねる。私の反応とは裏腹に、蒼真の目に熱が宿るのが分かった。へえ、と鼻先で笑う。
「相変わらず、濡れないのな。でも経験済みなら。この際、無理やりってのも悪くないかもな」
 ゾッとして、のしかかっている蒼真の身体を押すけれど、ものともしない。指の数が増えていって、異物感とそして強引な動きで中が引っかかれる痛みがある。

「痛い、やめて」
 引き離したいと思うけれど、足の間に蒼真の身体があるので、足を閉じることが出来ないのだ。こんなもの、したい人の気持ちが分からない。
 早く終われ、と思った――――



「痛いって言ってるけど、無視する意図は?」
 スッと冷たい声が背後から飛んできて、私は首を動かして、声の方を見る。同時に、私の上にいる蒼真もそちらを見た。
 その人物は、朝出かけに見たままのモノトーンコーデのジャケットとパンツスタイルだ。私にとって最高の顔でこちらを見ている。

「瑠璃也」
 と私は呟く。
 スマホを片手にこちらを見ていた瑠璃也は、
「摘出候補発見」と呟く。

「誰?」
 と蒼真が私に聞いてくるけれど、どこか責めるニュアンスがあり、発言権を奪おうとしている感じがした。中からずるッと指が引き抜かれる感覚に耐えるのが精一杯で、私は何も言えない。

 代わりに、
「水樹白那の婚約者の、紫陽瑠璃也です。今の光景はバッチリ撮影していたので、場合によっては警察に連絡しますね」
 と瑠璃也はスマホの画面をこちらに向けて言う。遠目では、画面に私と蒼真の姿が写っているように見えた。

「は?白那が自分から誘って来たんだし。冗談じゃねぇよ」
 蒼真は、私の上から降り瑠璃也の元へ行くと、首を傾け威嚇するようにして、瑠璃也と向き合った。

「こんな不感症とよく結婚しようなんて思うよな」と蒼真が言うので、私は思わず、
「やめて、瑠璃也を巻き込まないで」
 と言う。
 瑠璃也に、私の過去の部分を晒したいとは思わない。生々しくて、滑稽な部分を見せたくなんかない。

「白那のせいにしているけど。自分が下手だって、自覚は?」
 瑠璃也は眉一つ動かさずに言う。蒼真が目を見開いて、瑠璃也のジャケットの襟に手をかけた。

「あんたさあ、偉そう。どんだけ経験あるわけ?」その言葉に、瑠璃也が一瞬遠い目をする。

「ああ、経験経験経験ってさぁ。好きだよな、その手の話。ああいうのって、熱意が同じじゃないと、全然良くない。それにさ、さすがに強引に奪われる怖さは知らないだろ?」
 瑠璃也の妙に達観した物言いに、蒼真がひるむのだった。

「は、何言ってんだよ」

「結局、お前みたいに調子乗った奴が経験だけ増やすと、社会に悪影響なんだよ。自信だけつけるから、相手させられる人は気の毒。相手の気遣いで、上手いつもりみたいな?気遣いを搾取する奴って、消えればいいのに」

「はあ?」
 蒼真が襟首に力をこめるのが分かり、ハラハラとしてしまう。

「言動を自制できないのは、前頭葉の発達が未熟なんだろ。もういっそ、転生すれば?」
 瑠璃也がいつになく毒舌なので、私に対してはいつも優勢の蒼真も舌を巻くようだ。

「うるさい。あんたはさ、どうせ白那にグイグイ来られて、本気にした口だろ。だとしても、白那は自分からのスキンシップ多いくせに、やれないわけ。残念でしたー」

「蒼真、もういい。私のことバカにしてても良いけど、瑠璃也は関係ないでしょ」
 二人とも別に私のことを好きなわけじゃない。好きじゃないのに、「やる、やらない」と言われる。それだけのこの会話を聞いているのは辛すぎた。

「白那もさあ、そいつの顔に惹かれただけだろ。白那みたいなのが、ハイスぺと付き合っても絶対に本命になれない。遊ばれて浮気されるだけだって」
 顔だけ。
 たしかにそうだけれど、なぜか蒼真に言われると違和感があった。瑠璃也には、本命がいるのだろうから、その通りだと思うけれど。蒼真に言われるのだけは嫌だと思う。

「蒼真には、関係ない。瑠璃也に本命がいたとしても、私が遊びでも。蒼真には関係ないことだよ」
 私が言うと、蒼真は瑠璃也の服を掴んでいた手を離し、肩をすくめてみせる。

「お前ら二人ともバッカみたいだな。勝手にしてればいいだろ。けど、権利をもらうのは確実だから」と言うのだった。
「お帰りはこちらへどうぞ」
 と皮肉満点に言う瑠璃也に舌打ちをしつつ、蒼真は部屋から去っていく。



 蒼真の気配が部屋からすっかり消えたところで、瑠璃也がおもむろに壁に頭をぶつけはじめる。
「えぇ!?なに?」
「何アイツ、目力バキバキ。こわー輩かよ~」
 壁に頭をあてて、そのまま下へとずるずると下へ下がっていき、しゃがみ込むのだった。

「瑠璃也、大丈夫?」
 私は蒼真にずらされた下着を整えて、ベッドから降りる。近づいていくと、私の方を見上げて、瑠璃也は眉を寄せた。
「下、ボタン外れてる」
 スタッフウェアのボトムスに手をかけて、ボタンを留めてくれる。そのまま瑠璃也の視線がボトムスから離れない。意図することが分かる気がしたので、

「変なとこ見せてごめん、あの人、一応元カレ」と私は言う。

「うん。摘出候補の。忌々しいな」と瑠璃也は言った。

「なにそれ」と私が聞くと、瑠璃也は私の方に手のひらを向けてきて、
「あ、ごめん。ちょっと一度方向性整理するから。感情が追いつかない」
 と言うのだった。
 瑠璃也は、そのままへなへなとしゃがみ込んで、すっかりと腰を抜かしている。
 なんだこの、瑠璃也は、と思う。こんな瑠璃也は見たことがない。

「何しに来たの?」
 蒼真にも聞いたことを、私は瑠璃也にも聞く。
「サロンに見慣れない車がとまってるって、うちのスタッフが連絡くれたから」

「え?スタッフ?」

「いや、えーと。嘘嘘。白那と昼一緒に食べようと思って」

「瑠璃也、何か変じゃない?」
 と言えば頭を横に振る。

「いや、全然変じゃないって」

「話し方といい仕草といい、何か違うよね?」
 今の瑠璃也は表情豊かで、言葉が柔らかい。

「やっぱり急なことが起こると、上手く対応できないことがあるみたいだ。心底頭にくるわ、怖いわで。正直パニック」

「え、パニック、なんだ?」

「距離感が近いとか、話し方が嫌だとか、嫌だったら言って」
 顔を両手で塞ぎながら、眉を下げて申し訳なそうに言う瑠璃也は初めて見た。

「双子の兄弟とかじゃないよね。本当に瑠璃也?」
 と聞くと、瑠璃也は頷く。それから、私の顔をじっと見てくるのだ。

「白那、ハグしていい?」
 と言うのだけれど、あまりにも甘いニュアンスで聞いてくるので、こっちがパニックになる。

 これは、誰だ?と思うのだった。

 答えないままでいたら、
「白那。沈黙は同意だと思われる。いい?」
 と言って瑠璃也は笑う。
 私はなぜか頷いていた。

 瑠璃也の両腕が伸びてきて、包み込まれる。反射的に身構えたけれど、身体が冷えてくる感覚はなく、むしろぬくぬくとした温度にうっとりととろけそうになった。自分の変化に驚いてしまう。
「痛かったね。ごめん、遅くなって」
 身体を離し、頭を撫でられながら顔を見つめられていると、なぜか顔が熱くなってるのを感じた。
 瑠璃也の長い睫毛や端正な顔立ちが好きなのはもちろんだけど、顔に浮かぶ表情があまりにも柔らかくて、愛おしいと思ったのだ。
 その時ばかりは、触らないで、と口にするのを忘れていた。

 ちょうど昼休憩の時間だったので、店は見ておくからシャワー浴びておいでと瑠璃也が言ってくれたので、私はシャワーを浴びて蒼真の気配を洗い流す。その後は他のスタッフが出勤してきたので、バトンタッチして瑠璃也のマンションへ帰宅させてもらった。

 蒼真の持ってきた権利の問題は、頭の中の課題として刻まれている。私はママのお店を渡すつもりはないから、こちらから退くつもりはない。もしも、権利を買い取られてしまえば、蒼真から逃れられなくなる。共同経営をするにしても、蒼真と上手くやっていく自信はない。
 蒼真のことに悶々と頭を悩ませることとなるのだけれど、同時に、瑠璃也の変化にも私は戸惑っていた。
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