シタら終わるし、シタから取り戻す

KUMANOMORI(くまのもり)

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辛さの中身

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 ××は身体が最高、従順でエッチで、私とは大違い。凶器のような言葉をぶつけてきたのを覚えていた。
 セイのことは好きだけれど、私が未経験なことを馬鹿にするところは嫌いだ。

「弟のトアくんの方が優しいよね~。夫のライくんよりも」
「あ?」
 夫のキャラクター名を口にしてしまったのは、古傷に塩が塗られたからだ。

「その名前口にすんなよ」
「セイだって、名前口にしたよ」
 攻略キャラクターの名前を出すことなんか、珍しいことじゃない。けれど、私達は設定が繋がってるゲームを同時に精査しているようだ。

 しかも口にした名前は、互いの不倫相手の名前だった。
 イトは主人公の妹で、経験豊富でキュートな女の子だ。主人公との対比を描くための奔放なキャラクターのようだった。

「経験のある女の子がいいなら、主人公の妹役の子がいいなら。救済措置なんかやめちゃえばいいんだよ」
 セイはテーブルの上を人差し指でトントン、と叩く。イライラしているんだってアピールしてくる感じが、少し夫役にも似ていた。

 やだな、と思って視線をそらそうとしたら、手首をつかまれる。私は手を引っ込めようとするけれど、セイは離してくれない。

「モラハラっぽい。セイが夫役のライくんに見えて辛い」
「セクハラしてくるのは、妻役のチセの方だろ」
 と互いに譲れない。妊活を迫るストーリーはどん詰まりだ。

「ほらやっぱり、やめようよ」
 セイがちっと舌打ちする。そんな些細な仕草が、怖い。
「手、離してよ」

「やめないし、離さない」
 と言ってじっとこちらを見つめてくるセイは、怒っている感じではない。むしろ、照れているようにも見える。
 セイの発言と表情が一致していないように見えて、意味が分からない。

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