挑文師、業務結婚します

初夜の前に試練

6

「美景さん、視線をください」
　と融が言って来たので視線を合わせれば、鳥の文様が現れ出る。バシンと視線が交わると、膨大なノイズが入って来るのが分かった。いつのどこで誰が何をどんな風になぜやっていたのか。光の速さで大量な情報が流れ込んでくるのを感じた。
　――――耐えられる、かな？

　少しだけ怖くなる。じめじめとして感傷的な私は下手をすれば誰かの記憶に持っていかれてしまうかもしれない。
　一度あやとりをやめて、融がやめましょうか？と聞いてきた。私は首を横に振る。

「震えてますよ。鵺の記憶なんて捨て置いても構わないと思います」
　指先にまとわせた糸が鞠のようなサイズになっていた。

「今回最後の仕事です。編みこんでください、全部」
「それじゃ、なるべく優しくしますね」　

　もう一度、鳥の文様が現れ出てきて、融の瞳から記憶が流れ込んでくる。緑豊かな三つの山の遠景、夕焼け、空を飛んでいく鳥たち。人々の話し声があちこちから聞こえる。衣服も様々な人たちが現れ出ては消えていく。この世への誕生を微笑み出迎えられた瞬間から死の瞬間まで、数々の記憶がざらざらと私の中に流れ込んでくる。

　ようやく、途切れ途切れになっていき、結びつける記憶の終わりがみえてきた。最後にあったのは、誰か小さな子どものきゃっきゃきゃっきゃと笑う声だった。