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鵺のため息

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 ――――殺気。
「妖魔。惚けた女か、猫かぶり男かどっちかの気配を追え。禁書の気配が強くなっている」
「そりゃあ、美景でしょ。冷酷男は役に立たなきゃ祓うぞって脅すから。絶対近づきたくない」
「ま、さっさとお前を祓わないからには、小指の先ほどの打算があるんだろうよ。あいつが無益なものを置いとかないだろう」
「うわぁ最悪。本性みせて、美景に愛想つかされればいいんだ。絶対オレの方がいいのにさ~」

 白毛の妖魔は、ぶつくさ言いながら、去って行く。
 鵺は空を見あげた。
 おかしな空模様は、相変わらずだ。

 巨大な斧が陽光を浴びながら降って来るのを見て、随分と熱心に愛されているものだ、とわが身を思う。

 斧が突き刺さり、天然芝はザックリと土ごと掘りかえされた。

 墨痕、所々に血痕、そして、獣の足跡。さらには、土が掘り返され盛りあがっている。
 事が無事に終わったとしても。
 自分か妖魔か、あるいは弟子のすべてかが確実に痛手を負うのだろう、と鵺は思う。

 ぎらりと光る斧を追って、陽光文様の浴衣を着た童女がやって来た――――
 猩々緋の髪と銀色の瞳を持つ、童女は、斧を掴んで小首をかしげる。

「兄者、さっさと首を取らせてくださいな?」
「そんなに俺が邪魔か?」
「はい、挑文師の始祖は一人で十分ですよ?兄者」

 愛らしい顔でにんまりと笑えば、朱色の唇からちょろちょろと蛇が出てくる。
 恐ろしい奴らしか、いないようだ。
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