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故郷へは妖魔と共に

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 虹尾は今私たちが住んでいる雲井から、新幹線の乗り継ぎを経て7時間ほどの距離にある。鳥に変化して飛んでいくには少し遠い。だから水盤を使うことにした。
 スクールのある場所には水盤がある。私たちの暮らす場所から一番近い水盤は神宮の奥にあった。私は万理と連れ立って、神宮をお参りする。鬱蒼と茂る木々に囲まれた神域には、清浄な気配が満ちていた。

 清らかな気配がある場所に、水盤は開かれている。本宮奥の大木の根元に水盤を見つけた。
 本来水盤の場所は挑文師の目でしか見えない。けれど、元々人間ではない万理は、
「ここだね」
 と言うのだ。

 大木の洞の中に水が溜まっていた。この水をくぐれば、隧道にはいれるだろう。そこから先は、虹尾や、志野頭、陽乃埜などの各スクールの場所へと分岐するはずだ。

「万理にも見えるの?」
「もちろん。オレたちも移動には、水盤裏の隧道を使うんだよ」
 と言って万理が手を取って来る。
「こ、これは不倫になるかも」
 と私が言ったら、万理は頬を膨らませてみせた。

「ならないよ。護るって約束したんだ。やむを得ない外皮接触は許可しますって言ってた」
「外皮接触……?」
「冷酷男は、正直最悪だけど。美景を護りたいってことだけは一致してるから。少しでも美景が傷ついたら、処刑って言われた」
「処刑は言いすぎじゃないかな」
「大丈夫、絶対に護るから」
「すごい自信だね」
 と私は言う。

「そりゃそうだよ、オレは美景の守護者なんだ。絶対に護る」
 万理がそんな言葉を言うとは思わなかった。万理のことをダメ男でいい、クズ男でもいい。記憶の部屋は見えないし、顔が好みだからどんな性格でもいい。そんな風に思っていた私の方こそが失礼だったのかもしれない。
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