挑文師、業務結婚します

失われる瞬間ばかり見る

3

　虹尾に佐鶴の両親の様子を見に行くことにする。虹尾に行くのは、少しだけ気が重い。
　休日の前夜に、融に話をする。私が言ったら、
「クリニックを休診にして、同行します」
　と融は言う。けれど、記憶障害に関する患者が急増している以上、休診にして情報を取り逃すのも惜しい。それに漠も増えている。

「私は元々住んでいましたし、土地勘があります。融さんには、そちらの情報収集をお願いします。漠も増えていますし」
　と告げる。
「ですが、美景さん。本来ならば、二人体制が望ましいと思います」
「だとすれば、一人、心当たりがありますよ」
　私は窓の外に視線をやってみる。融にもすぐに伝わったようだ。
「それは、俺も心当たりがあります。ですが、信用できるでしょうか？」
　と融は言うのだ。

「融さんが気になるようなことは、何もありませんよ。絶対に」
　と私は言うのだけれど、
「絶対はありません、美景さん」
　と言うのだった。
「信じてください。融さんにしか、あげません。私は融さんのものですよ」

　融は額に手を置いて、すっかり困ってしまったような顔をするのだ。
「美景さんは、とても真っすぐですね。時々、驚きます」と言う。
「身持ちは固いんです。素面なら」
「素面なら、ですね」
　と融は繰り返す。

　何度となくこんなやり取りを繰り返し、
「編みましょう？」
　と言うに至った。