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いやな予感がぞろぞろと

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「記憶障害に関しては、こちらでも手を焼いています。その件数に比例して、各地で漠の数も増えているようです」と深夜。
「下手なあやとりは、記憶の欠片をこぼし、漠を生みます。この頃は下手なあやとりがあちこちで行われているようです。漠も生まれますね」
 と部屋に入ってきた融がコメントをする。
 そして、白衣を脱ぎ、ダイニングの椅子にかぶせた。

「すみません、大丈夫でしたか?」
 と聞けば、
「現在の時間はカウンセリング希望の方が二名だけなので、カウンセラーに任せてきました」
 と言う。
「ああ。あなたが、寧月さんですね」と真昼が言う。融はその言いぶりに、言語外の意図を読み取ったらしい。
「初めまして。かの、禁書で有名な寧月灯の息子です」

 融は淡々と言う。自分からお母さんの名前を出すのは珍しいと思った。
 融の言葉に、真昼も深夜も眉をあげる。
「その節は、ご愁傷様でした」
 と言い、二人揃って頭をさげた。
「禁書の件は、何か進展はありますか?」
 融は逆に質問をし始める。

「時おり気配を補足するくらいですね」
「原因不明の事故の情報なら、美景さんも充分補足しているようですよ?本局独自の視点はありませんか?」と融は詰めていく。
「申し訳ないですが、お伝えできるようなことは何もありませんね」と深夜は言う。
「こちらも報告できることは、これ以上ありません。ですよね、美景さん」と融に同意を求められて、頷いた。

 私が困っているのを察して、上手く方向転換してくれたようだ。
「では、何か分かったことがあれば、ご報告お願いします」
 と真昼は言う。
「こちらも、また何かあれば、うかがわせていただきます」
 と深夜。

 そうして、二人は去って行った。二人とも猫の姿になり、窓から出て行く。
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