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いやな予感がぞろぞろと

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 融のメンタルクリニックでは、この頃異様な訴えをする人たちが増えているようだ。
「何を忘れたのか分からないが、何かを忘れた」
 という訴えの患者が多いらしい。

 話を聞いてみれば、記憶喪失があるわけでも、明らかな健忘の症状があるわけでもなく、ただ何か記憶に引っかかりを覚えているというだけの患者が多いようだ。
 そういう患者は少なくないらしい。ただ、主訴の裏に他の要因があるケースが多いようだ。

 その場合には、融自身をはじめ、常任のカウンセラーとのカウンセリングをとおして治療をしていく。
 融のクリニックは、記憶関係のカウンセリングに強いと標ぼうしてるわけではなかったけれど、挑文師同志の連携により、記憶に関する訴えを持つ患者がやって来るようだ。

「記憶のことなら、こちらで話を聞いてもらうといいと聞いて来ました」と言い、融と話をするだけで帰っていく患者もいるらしい。

 ただ、この頃やって来る患者は、「何か忘れたと自覚的に訴えているので、今までとは毛色が違います」と融は言う。
 咲綾に関しては、近辺で起こったために補足できたけれど、私の補足できていない範囲でも、あちこちで記憶障害が起こっているようだ。

 私自身は漠を目撃することが多く、仕事時間中に漠を払うことも増えている。融もまた同じで漠を払うために時間を費やしていた。
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