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禁書の痕跡を探って

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 私がそう言ったら、人の姿の甲子童子は、思わせぶりな視線を送って来る。
「お前の考えていることは、少しだけ分かる。どの世でもある自己卑下による、自己犠牲だ」
「自己犠牲じゃない。必要ならば引き受けるってだけ」

「見た目と中身が随分と、違うな。平和ボケしたオジョウサンじゃないわけか」
「平和ボケが許されるなら。挑文師なんかに、なってるわけない」
 と言ったら、甲子童子は笑う。
 千景の奴も同じようなことを言っていたな、と言うのだ。

 平和を作るために、どれほどの労力が必要なのか、私も千景も知っている。私たちの場合、正当な方法では、平和は手に入れられなかったけれど。

 そんな話をしていたら、
「あー!ヘンタイ野郎!美景に近づくなよ!」
 と人の姿の万理がリビングにやって来る。
「虹尾の妖魔か。面倒だな」
 と言って甲子童子はとらつぐみの姿をとると、窓の隙間から飛んでいってしまう。随分と傷も良くなったようだ。私はその姿を見送っていた。
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