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記憶の中に愛情をみる

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 姉の中の咲綾もまた、糸を重ねて思い出せないようにされていた。
 かすかに見えるのは、いとけない赤子としての咲綾、自分の後を追いかけるいじましい幼児としての咲綾、対等な話ができる頼もしい学生になった咲綾。そんな姿だ。本人の中では思い出されることがない記憶を、私たちは少しだけ見ることができた。
 姉、咲菜の記憶の中に、咲綾の存在を見つけ、私は心が痛む。

 笑い声や泣き声が聞こえた。本人の中では浮かびあがらない記憶の中に、咲綾の痕跡がある。
 愛情というものがなんなのか、私にはよく分からないけれど。

 記憶の中の姉には、咲綾への愛情は垣間見えていた。柔らかな声で妹を呼び、声をかける。時に喧嘩をしていた。
 これは、消してはいけない記憶だ、と思う。
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