挑文師、業務結婚します

消された少女を求めて

3

　戸籍課にいるその人に会うには、役所の時間に合わせなければいけないので、平日に行く必要があった。その日は休み時間に抜け出して、融とともに会いに行く。
　思えば婚姻届けを出したのも、この役所だったな、と思う。
　二人連れだって入っていき、戸籍課に向かった。

「すみません、賢木連李さんはいらっしゃいますか？」
　と窓口の女性に、融が声をかける。一瞬にして、ほわっと女性の表情が溶けるのを私は目撃してしまった。融が話すと、他の職員も視線を融の方に送っていく。
　柔らかな物腰に丁寧な所作、品がよく端正な顔つき。芸能人？と疑いたくなるほど目を引くのは間違いない。
　市井に混じるという意味では、融の見た目は目立ちすぎる。

「少々お待ちください」と言って呼びに行った女性は、焦るあまりにつまずきそうになっていた。
　大丈夫かな？と心配になる。

　間もなくやって来たのは、ウェーブボブの女性だ。前髪をセンター分けしており、綺麗な弧を描く眉毛が見えた。形のいい唇に引かれた紅いリップがセクシーだ。
　左手に結婚指輪を見つけて、私はふと融を見てしまった。知り合いとは、まさか、そういう意味？と思ったけれど、融は首を横に振る。

「違います」
　と一言。
「寧月、結婚おめでとう。あんたにしては、かなり趣味がいい子選んだね」
「それは、どうも」
　と融。

「そしてあなたは。可愛いのに、どうしてこんな甲斐性ナシと結婚したの？もったいない」
　とつっけんどんに言われて、私は驚いてしまった。
「あの、そんなことは。むしろ融さんの方がもったいないと思います」
「それはないね。学生の時からこいつは最悪だよ。もう本当に、最悪！皆まで言わないけどね」
　と顎でしゃくってみせる。

「融さんが人気があるのは、仕方ありませんよ。眩いですもん」
　私は先ほど融によろめいていた女性を目で追う。何の前情報もなく、融と出会っていたら、きっと私だって気後れして話かけてはいないだろう。

「人気って言うか、寧月の本性を知らないからだね。あなたこそ話しやすそうで、可愛い。男性陣が放っておかなさそう」
「いいえ、まったくモテないです。人生でモテたためしがありません」
「それは多分。美景さんが気づかなかっただけですね。あの魑魅魍魎に包囲網を張られていなければ、かなりモテると思います」
　私は思わず融を見た。それの話はやめましょう、と視線を送ったら、

「では。過去の話は後にしましょう。戸籍を調べてください」
　と融は単刀直入に切り出す。