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生きてない気がする女の子の話

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「生きてないような、気がするの」
「生きてない?」
「わたしは、なんなんだろう。わたしは、誰なんだろ?……」
 私はそのとき、急に、手に持っていた手提げや、彼女のほつれ髪が気になり、車のタイヤが地面にこすれる音が耳にさわりました。

 物理的な意味での現実ってものが、どっとわたしの身にふりかかってきて、あ、これが現実だって思ったんです。ただ、彼女の言う言葉だけが非現実的でした。
 自分が何だか分からないなんて、そんなことを言うのは、理解できなかったんです。

「あなたは、あなただよ」
 私はそういって、線を引いたんです。
 その子は、目を細め、灰色の声で言いました。「ありがと」って。
 その後、その話をすることは、ありませんでした。 
 今日、夕焼けを見ていたら、その子のことを思い出したんです。

 その子が今どうしているのか、私は気になります。
 あの日、その子の心に一番近かったのは、私のはずなのに、線を引いて離れてしまったその子のことが心配なんですよ。

 そうしめくくり、ルイしゃんの話は終わった。
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