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紅い女とヒーロー参上

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 私は最も靄の濃くなっている場所はどこだろう、と思いながら、耳の後ろの刺青に触れた。愛玩物に触れていれば漠に飲み込まれることは少ない。

 漠はその名の通り、とりとめのない漠然とした幻想を見せてくる。決着もなく終わりもない夢のようなものを見せてくるのだ。飲み込まれないようにするには、現実に繋ぎとめてくれる愛玩物が必要になる。

 思い入れのある物品に触れて、自分の現実を思い出せば、漠に飲み込まれることはない。
 私と千景は、「彼」を消すと決めた日に互いの身体に刺青を彫った。刺青の手順を本や学校の端末で調べて、刺青を彫る。

「これは、聖痕だ」と千景は言った。
 聖痕って何だろう?と私は思いながら、痛みに耐える。手先に関しては私の方が器用なようだ。千景の彫った刺青は少し歪だった。線は歪んでいるし色も少し滲んでいる。
 でもその歪さは、愛着を持つのにちょうどよかった。

 漠の中を進んでいくと、どんどん靄は濃くなっていく。
 頭の中にざらざらと昔の記憶が流れ込んできた。私にはロクな過去はない。痛いか、辛いか、気持ち悪いか。そんな感じだ。
 少し気分が悪くなってきたので、もう一度、耳の後ろを撫でる。
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