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あざと系クズ彼氏の使い方

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 青年の名前は垣根州。大学一年生のようだ。SNSにあがっている情報を見れば、近隣の大学だった。

「彼の周辺を探るには、場合によっては変化も必要かもしれません」
 と融。
「友人か同級生かですか?」
 と私が言えば、融は少し思わせぶりな視線を送ってきた。
「彼の好みの女性に、というアイデアもあります」

「あやとりがしやすいと?」
 言わんとすることは分かる。人に隙ができるときは、何かに強烈に惹きつけられているときだからだ。こちらに向けて惹きつけられている人は、記憶の部屋への侵入を許してくれやすい。

「好みの傾向がわかれば、やってみます」
 と私が言えば、融は意外そうに眉をあげて見せる。
「冗談です。この青年の人柄にもよりますが、色恋沙汰は後始末が厄介ですから」
 と言うのだ。意外に慎重だな、と思う。

「融さんが女性に変化しても、いいはずですよ」
 と冗談めかせば、
「俺の場合、女性の資料が偏っているんですよね。既婚者としか付き合ったことがないから。既婚女性の資料でよければ豊富なんですが」
 と言われてしまい、融の遍歴を意図せず知ってしまうこととなる。

「既婚者が好みなんですか?」
 つい突っ込んでみれば、
「好みというよりも、別れても罪悪感がないからですね」
 とさらっと言われてしまい、はぁ、と同意ともため息とも言えない声がでた。

「俺には将来の約束なんて出来ませんから。期待しない、させない関係のほうが、かえって健全だと思います」

 相手はどうだったろう?学識豊富で眉目秀麗、物腰も柔らかい独身男性。更にこのメンタルクリニックの若き経営者だ。期待しないのは、難しい気もするけれど。と思ったけれど、言わないでおく。
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