33 / 228
おかあさん、ごめんなさい
3
しおりを挟む
彼女と彼が家に鍵をかけて、どこかに行ってしまう日には、私たちに居場所はない。狐狸が住まうと噂のある原生林の中で、私たちは身をひそめる。
大木のうろの中や、根のトンネルの中で私たちは遊びまわっていた。
原生林の中ではときどき匂いの違った風が吹く、と私は思っていたし、千景は色の違った風が吹くと思っていたらしい。
千景いわく、青と白の風が交ざる瞬間があるのだという。この表現はいまだに分からない。けれど、千景は漠が生まれる場所のことを今でもそう表現している。
「青と白の風が交ざる場所に、漠が生まれる。オレにはそう見えてる」
今でも千景はそう言うのだ。
その日、青と白の風が交ざった瞬間。
私にとっては、お酒の匂いの風と柑橘類の匂いの風が交ざった瞬間――――。
漠が生まれた。
気づいたときには、私たちは既に飲み込まれていたようだ。
漠は、幻覚を見せる。漠は人やものや、動物たちの記憶からこぼれ落ちる記憶の欠片のようなものだ。
記憶の欠片はいつの間にか寄せ集まって、自然災害のようにあちこちで漠として発生する。その人の記憶の底にたまっているものを上手くすくいだして、痛い所をついてくるのだ。痛い所をつかれ、漠の外に戻って来られない人は、心を病んでしまったり事故に遭ってしまったりする。
大木のうろの中や、根のトンネルの中で私たちは遊びまわっていた。
原生林の中ではときどき匂いの違った風が吹く、と私は思っていたし、千景は色の違った風が吹くと思っていたらしい。
千景いわく、青と白の風が交ざる瞬間があるのだという。この表現はいまだに分からない。けれど、千景は漠が生まれる場所のことを今でもそう表現している。
「青と白の風が交ざる場所に、漠が生まれる。オレにはそう見えてる」
今でも千景はそう言うのだ。
その日、青と白の風が交ざった瞬間。
私にとっては、お酒の匂いの風と柑橘類の匂いの風が交ざった瞬間――――。
漠が生まれた。
気づいたときには、私たちは既に飲み込まれていたようだ。
漠は、幻覚を見せる。漠は人やものや、動物たちの記憶からこぼれ落ちる記憶の欠片のようなものだ。
記憶の欠片はいつの間にか寄せ集まって、自然災害のようにあちこちで漠として発生する。その人の記憶の底にたまっているものを上手くすくいだして、痛い所をついてくるのだ。痛い所をつかれ、漠の外に戻って来られない人は、心を病んでしまったり事故に遭ってしまったりする。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
碌の塔
ゆか太郎
ライト文芸
街中に佇む不思議な映画館。
真夜中の峠での不思議な出会い。
逸れたもの同士が繋いだ手。
薬屋、絵描き、ヒーロー。
名前のない職業の人々。
そしていずれ来る星の終わり。
多種多様な世界で生きる、命の綴り。
その不揃いな石を積み上げて、それでも私は塔を作る。
(こちらは以前Twitter(現X)にて掲載していたものと同様の内容です。)
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる