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挑文師、結婚しました

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 私たちは表の仕事と裏の仕事を持っている。
 私は高校の養護教諭、そして融はメンタルクリニックの医師だ。これは生計を立てるため、そして市井に紛れるための仕事だった。
 一方の裏の仕事に関しては、欲しくて手に入れた仕事ではない。私や弟の千景もそうであるように、やむなく手に入れざるを得なかった仕事だ。

 例えば、私たち姉弟の場合は、消したい記憶があって記憶を消す方法を調べていたら、この仕事にたどり着いてしまった。
 そこから、奇しくも挑文師としてスクールに通うことになり、「挑文師(あやとりのし)」としての技術や知識を手に入れてしまうに至る。

 挑文師は記憶を司る仕事だ。
 挑文師は基本的に人々の記憶の保全や管理を行う。人の記憶が勝手に改ざんしてしまったり、勝手に記憶を奪ってしまったりすることがないように、見張るのが仕事だ。

 付随して様々な職務がある。けれど、当然挑文師にはそれぞれ得意不得意があるため、得意とする分野の仕事を司っている。私や千景は、漠の清浄化や漠から民間人を保護するのを得意としていた。

 いずれの挑文師も、「あやとり」の目を持っている。人の中にある記憶の部屋を見ることのできる目だ。その目で見れば、相手の重要な記憶を見られる。
 例えば、愛を交わす時間や、歓喜の瞬間、絶望の瞬間、なんてものも。見れてしまう。
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