♡バカップルでごめん♡

大好きだと叫びたい

　心投票が迫る中、輝夜の両親が輝夜の所在を確かめにやって来るとの話が環の耳に届く。
　息子の行方が知れないことでようやく重い腰をあげたらしい。

　環は一度、彼の両親を見て見たいという欲に駆られた。愛しの彼を育んだ両親なのだ。交際も結婚も、認められるとは思わなかったけれど、どんな方々なのかしら？と好奇心は募る。

　輝夜の部屋の前に行ってみれば、彼と似た眼光鋭い男性と、これまた気の強そうな女性がいた。一目で輝夜の両親だと分かる。

　通り過ぎるつもりで会釈をしたら、
「やあ、君は春黎環だろう？君のお父上はまだあの女といるのか？」
　予想外に剣呑な言葉をぶつけられた。

「随分な物言いね。あなたこそ、この女といるのに」
　と自分を指差す母親もまた、剣呑だ。

「母とは私の母、春黎笑（えみ）のことですか？」
「ああ、そうだな」

「いますよ、両親はそれなりに円満かと思いますが」
「円満に見せるのが上手なのよ、笑は」

　――――ん？
　どこか親し気な物言いに、環は驚いた。

「君にも、夏嶺流あたりから話がいっているのでは？連立政権どうのといって。すべては心投票のために」
「ああ、政略婚万々歳ね。愛なき結婚に幸あれっ！」
　両手を広げて輝夜の母は言った。芝居かかった口ぶりに、環はぎょっとしてしまう。

「政略婚なんですか？」
　環の問いには、両者の睨みが飛ぶ。

「当然だ。心導国には恋愛結婚なんてものはない」
「愛を司る審理愛愛党の党首たるものであっても、ですか？」
「恋を司る心導恋恋党の党首たる、君のお父上もお母上も当然政略婚の餌食だ。この国に自由恋愛なんてものはないんだよ」
　絶望的な発言を聞き、環は愕然としてしまう。

「あなたに好きな人はいないの？」
　輝夜の母の言葉に、環はひゅん、と胃の辺りが心もとなくなる。

「あなたの息子さんがだぁあいすきです、はーと」と言いたい。「あなたの息子さんを私にくださいっ！」
　と切に言いたいのだ。ただ、仮にそう口にしたとしたら、学園を退学させられるかもしれない。春黎家と秋彌家は例によって、犬猿の仲なのだから。

「大好きな人がいます。どんな姿になっても、絶対に見つけ出せるほど大好きな人がっ！」
　力強く告げて、では、失礼しますと環は去って行く。

　――――輝夜のご両親に、ご挨拶に行く機会があれば幸せなのにっ。そしたら死んでもいいくらいなのにっ！

　と環は思うのだ。