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国外逃亡願望がつのる
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環はうんざりして来た。
心導国にいる限りこの派閥争いの下にいなければならない。
「しかし、環。その貧相な姿はいかがなものだろう。心を集めるのは難しい。早く淫魔と契約しなさい」
父は余計なお世話をぶつけてくる。環の苛立ちはますます強くなっていくのだ。誰のせいで表立って交際が出来ないの?と思うからだ。
だから、
「もし、政権と握りたいなら。審理愛愛党の秋彌家と結んだ方が利はあると思うけど。学園の政権も愛愛党が握っていることだし」
環は苛立ちまじりに告げた。一斉にしじまが広がる。
「その秋彌家。名前を口にするなっ!」
父がそう言い、夏嶺の父親もふるふると握りこぶしを震わせていた。心導国会では審理愛愛党に対して、野党である心導恋恋党の党首である父と平和友友党の党首である夏嶺の父は毎度退屈な答弁を行いながら貶し合っている。政策に対する批判ではなく、単なる人格批判に走ることもあった。
脱線に次ぐ脱線に野党への非難ごうごうだ。おかげで政権の支持率が維持されている。
「何を言っても、結局負けているじゃない。毎回心を集められていないじゃない。そんな父さんが何を言っても無駄だと思う」
環が告げたときの、父の落ち込みと言ったら筆舌に尽くしがたい。
「あいつは、何から何まで持っていってしまうっ!心底憎くてたまらない」
私怨が十分含まれているので、
「公私混同もいい所ねっ」
自分のことは棚に置いて環は言う。
「父さんたちの思惑のために、結婚はしないっ。私には心に決めた人がいるもの」
口にしたら夏嶺の視線が突き刺さってきた。
「そう、彼女にはずぶんずぶんに交じり合い、乱れ合うお相手がいらっしゃるんですよ」
投げ込まれた言葉に、環はひっと息を飲んでしまう。何を言うの、と視線を送れば、夏嶺はさっと視線を逸らした。
両親たちは蒼白だ。
「それは、本当なのか?」
父が尋ね、
「とても卑猥な言葉が聞こえた気がするけれど、本当かしら」
と母が言う。
「月末の逢瀬をお楽しみ時間に当てているようです」
夏嶺は余計な情報を与えてくれる。
「たしかに、この頃はほとんど家に帰ってこないな」
父が妙に納得してしまったことで、環は旗色が悪くなってきた。
少なくとも心導学園を卒業するまでは、隠しておかなければいけないと思っていた。そもそも、話すつもりもない。
どう考えても反対されると思っていたからだ。
「誰なんだ、それは」
環は必死で頭の中で、最善の手を探そうとする。
「その人の名前は」
「名前は?」
どれだけ考えてもいい策は思い浮かばない。どうすれば――――
心導国にいる限りこの派閥争いの下にいなければならない。
「しかし、環。その貧相な姿はいかがなものだろう。心を集めるのは難しい。早く淫魔と契約しなさい」
父は余計なお世話をぶつけてくる。環の苛立ちはますます強くなっていくのだ。誰のせいで表立って交際が出来ないの?と思うからだ。
だから、
「もし、政権と握りたいなら。審理愛愛党の秋彌家と結んだ方が利はあると思うけど。学園の政権も愛愛党が握っていることだし」
環は苛立ちまじりに告げた。一斉にしじまが広がる。
「その秋彌家。名前を口にするなっ!」
父がそう言い、夏嶺の父親もふるふると握りこぶしを震わせていた。心導国会では審理愛愛党に対して、野党である心導恋恋党の党首である父と平和友友党の党首である夏嶺の父は毎度退屈な答弁を行いながら貶し合っている。政策に対する批判ではなく、単なる人格批判に走ることもあった。
脱線に次ぐ脱線に野党への非難ごうごうだ。おかげで政権の支持率が維持されている。
「何を言っても、結局負けているじゃない。毎回心を集められていないじゃない。そんな父さんが何を言っても無駄だと思う」
環が告げたときの、父の落ち込みと言ったら筆舌に尽くしがたい。
「あいつは、何から何まで持っていってしまうっ!心底憎くてたまらない」
私怨が十分含まれているので、
「公私混同もいい所ねっ」
自分のことは棚に置いて環は言う。
「父さんたちの思惑のために、結婚はしないっ。私には心に決めた人がいるもの」
口にしたら夏嶺の視線が突き刺さってきた。
「そう、彼女にはずぶんずぶんに交じり合い、乱れ合うお相手がいらっしゃるんですよ」
投げ込まれた言葉に、環はひっと息を飲んでしまう。何を言うの、と視線を送れば、夏嶺はさっと視線を逸らした。
両親たちは蒼白だ。
「それは、本当なのか?」
父が尋ね、
「とても卑猥な言葉が聞こえた気がするけれど、本当かしら」
と母が言う。
「月末の逢瀬をお楽しみ時間に当てているようです」
夏嶺は余計な情報を与えてくれる。
「たしかに、この頃はほとんど家に帰ってこないな」
父が妙に納得してしまったことで、環は旗色が悪くなってきた。
少なくとも心導学園を卒業するまでは、隠しておかなければいけないと思っていた。そもそも、話すつもりもない。
どう考えても反対されると思っていたからだ。
「誰なんだ、それは」
環は必死で頭の中で、最善の手を探そうとする。
「その人の名前は」
「名前は?」
どれだけ考えてもいい策は思い浮かばない。どうすれば――――
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