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暗殺の予感

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 環は早く禁止令がとけて!と切に願っているのだけれど、中々とけない。
 ばかりか、夏嶺があり得ない提案をしてきた。
 各授業でピッタリと環をマークしてきて、夏嶺は囁いてくるのだ。

「連立を発表しましょう。友友党の中では早く恋恋党と連立しないのか、と今か今かと待ち構えている者が多いです」
「それはいやだと言っているでしょ」
「では、うちの家族に会って顔合わせをお願いします」
「へ?」

「あなたは、オレの唇を奪いましたよね?」
 自分の口元を親指で撫でてみせて、夏嶺は言う。
「い、いいえ。奪ったのはあなたですよね?」

「どちらが主導でも構わないんです。唇を奪った相手は即座に家族会議にかけよ、との家訓があるので」
「そんなの知りませんっ!対立政党の党首をご家族の元に連れて行くなんて、正気の沙汰じゃないですよ」

「知らないんですか?あなたのお父様とうちの父親とは旧知の仲なんですよ?あなたのお父上である春黎雅(みやび)とオレの父親の夏嶺留(とまり)は学生時代の友人なんです。付き合っているとなれば、あっさりと婚姻までいくでしょうね」
「えぇ!?」

 そんな繋がりがあるなんて、知らなかったし、環からすれば今知ったとしてもまったくありがたくもない情報だ。興味もない。
 そう、環の父である春黎雅と輝夜の父である秋彌眩夜(まぶや)が最悪の仲ゆえに、環と輝夜が対立状態になっていることの方が重要だった。

「付き合ってなんていないものっ!唇を奪った程度で婚姻だなんて。だとしたら、私は何人と婚姻すればいいのかしら?」

 キスまではセーフ。プライベートゾーンに触れたら、その瞬間からその人物は輝夜の制裁対象になる。夏嶺は現在ギリギリのラインだった。環の胸に触れている時点で、輝夜はシンパを動かし暗殺する準備は万端だ。

「婚姻なんてしたもの勝ちじゃないんですか?あなた方に関しては、今後も出来ない理由がおありみたいですが」

 夏嶺がすべて承知の上で言っているのだと、環には分かる。春黎家と秋彌家の関係が良好ではないこと、二人を阻むものが多いことを知っていての提案なのだ。

「いやよ、婚姻なんて。好きな人とするものでしょ」
「好きな人とは結ばれないですよね。あなた方も場合は」

 同じようなやり取りをこの後、何度となくすることとなる。環がこの夏嶺のしつこい付きまといを振り払えないのは、学外に出られないこと、自由接触が禁じられていることが起因している。
 学内にいる限り、どの場面でも夏嶺が環に張りついているのだ。

 ――――環のそばを離れろ、さもなければ、あと数日で命がないと思えっ!
 涼しい顔をして、他の生徒と剣技をする輝夜の視線の端には、環と夏嶺の様子が映っている。

 環はその視線をびしびしと感じながら、

 ――――ああ、輝夜っ。もういっそ。その獰猛な視線で犯して欲しい~っ!
 と思っている。

 このままだと、夏嶺の家族との顔合わせが早いか、輝夜が夏嶺を暗殺するのが早いかの勝負となりそうだ。
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