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緑と黄

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 戸籍謄本の碧衣の部分には、特別養子縁組の裁判確定日という記載がある。裁判日も、届出日も、記載されているのは、碧衣の生まれた年だ。
 届出人は父母となっていた。

 従前戸籍:蔓日清霞(つるにち さやか)入籍戸籍:矢車聡一

 蔓日清霞というのが、碧衣の産みの母なのだろうとは思った。
 碧衣のどこにも欠けの見当たらなかった家族に、隙間を見つけてしまい、俺は少しだけ落胆する。

 そして、安堵していたんだ。
 どこにも欠けのない、幸福な家庭なんて本当はどこにもないのかもしれない。
 だとすれば、元々そんなものを知らない俺も、碧衣と幸福な家庭を目指すことは出来るのかもしれない。
 そう思ったからだ。

 花菜野がそれを、許さないとは知っていたけれど。

 花菜野はどんな方法でも取るし、どんなものでも利用する。
 例えばそれは俺でも、自分の子どもでも、だ。

 きっと――――
 俺の良心は、早かれ遅かれ、その友達の身体とともに滅ぶのだろう。

 分かっていても、きっと逃げられない。碧衣のことが好きだから。
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