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緑と黄

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 ある日、たまたま放課後の廊下を歩いていたら、
「ね、柘って、碧衣のことが好きでしょ」
 と水引花菜野から声がかかった。

 彼女は碧衣の友人で、いつも一緒にいる。華やかな印象で物静かな印象の碧衣とは対照的だ。
「好きだよ」
 と俺は言う。

 本当のことだし、隠すこともない、と思って口にしたら、
「清々しいね。好きなものと好きって言える人って好きだよ」
 と花菜野は微笑んだ。

「唐突だな、何か用があるの?」
 と聞いたら、
「碧衣の恋人になりなよ」
 と言われる。

 脈絡もなく放り込まれた言葉に、俺は眩暈がしそうになった。花菜野は長い睫毛がぱちぱちと音を立てるように、大げさな瞬きをする。

「意味、分からない」
 と言葉を絞りだすのがせいぜいだった。

「恋人なら私の競合にならない。恋人になって、出来れば子どもでも作って結婚してくれたらいい」
 と先走ったことを言って来る。

「なんでそんなことを、水引に言われなきゃいけないの」
「それは、さ。柘の努力を知ってるからだよ。自分の人生を生きるための、必死の努力をね。お母さん、帰って来なければいいね」

 水引花菜野はほほ笑む。艶やかな唇が、綺麗な弧を描いた。俺は息を飲んだ。
 なんでそれを、それほど親しいとは言えない彼女が知っているのだろう?と思った。

「碧衣の傍にいる人に関しては、情報収集かかせないの。ちょうど、親戚が入院していたから、お見舞いがてら。お母さんの病室のぞかせてもらったら、ね」

 凄いことしてるなって、思った、と花菜野はクスクス笑いながら続けた。
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