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残ったのは、誰?

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 私は緋々来の仕事の手伝いをするようになり、彼を過ごす時間が増えた。
 そんな仕事を通した付き合いが一年近くたち、そのうちに、彼の弟さんに改めて、紹介される。

「弟は事件のことはほとんど知らない。母さんが話さないから」
 と言うのだ。
 だからこそ、実家を早く出る必要があったんだ、と緋々来は言う。

 その後交際を申し込まれ、常盤との面会で、緋々来と付き合うことになった、と報告した。
「そう、早かれ遅かれ、そうなるとは思ったよ」
 としめやかに言う。 

 私は常盤に聞いてみたいことがあった。
「常盤は、本当に常盤なの?」
 と。聞いた途端に常盤は、くすくすと笑う。

「すごい質問だね。事情を知らない人が聞いたら、頭がおかしいと思うと思うよ」
「そ、そうだよね」

「でも、答え合わせは必要かな?俺は碧衣と過ごせて幸せだった。こうして、面会にまで来てくれる。碧衣は本当に優しい人だなって思う」
「そんなこと、ないんだよ」

 私は優しくなんかない。
 何度も、いけないことを考えた。常盤と別れられたらって、解放されたらって思ったことがあったから。

「答え合わせは必要ないんだよ。碧衣は今知らないことは、知らないままでいいと思うんだ。今、碧衣が幸せなら」
 私の幸せ?
「常盤が笑ってくれたら、それで良かったの。私は個展に行った日、幸せだなって思った。常盤と穏やかな時間が過ごせたから。初めてお花を買いに来てくれたときみたいな、あの、穏やかな感じが嬉しかっただけ」

 私が言ったら、壁を挟んだ向こうの常盤は、微笑んだ。少し痩せて影が差しているように見えた表情に、光が差す。
 そう、常盤は笑うと本当にいい。

「そう。穏やかに、いられたら良かったよね。俺もそう思う。多分、それは無理だったんだ」
 と常盤は静かに言った。

「また来るね」
 と私は言って、面会室を出る。
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