113 / 146
残ったのは、誰?
1
しおりを挟む
私は緋々来の仕事の手伝いをするようになり、彼を過ごす時間が増えた。
そんな仕事を通した付き合いが一年近くたち、そのうちに、彼の弟さんに改めて、紹介される。
「弟は事件のことはほとんど知らない。母さんが話さないから」
と言うのだ。
だからこそ、実家を早く出る必要があったんだ、と緋々来は言う。
その後交際を申し込まれ、常盤との面会で、緋々来と付き合うことになった、と報告した。
「そう、早かれ遅かれ、そうなるとは思ったよ」
としめやかに言う。
私は常盤に聞いてみたいことがあった。
「常盤は、本当に常盤なの?」
と。聞いた途端に常盤は、くすくすと笑う。
「すごい質問だね。事情を知らない人が聞いたら、頭がおかしいと思うと思うよ」
「そ、そうだよね」
「でも、答え合わせは必要かな?俺は碧衣と過ごせて幸せだった。こうして、面会にまで来てくれる。碧衣は本当に優しい人だなって思う」
「そんなこと、ないんだよ」
私は優しくなんかない。
何度も、いけないことを考えた。常盤と別れられたらって、解放されたらって思ったことがあったから。
「答え合わせは必要ないんだよ。碧衣は今知らないことは、知らないままでいいと思うんだ。今、碧衣が幸せなら」
私の幸せ?
「常盤が笑ってくれたら、それで良かったの。私は個展に行った日、幸せだなって思った。常盤と穏やかな時間が過ごせたから。初めてお花を買いに来てくれたときみたいな、あの、穏やかな感じが嬉しかっただけ」
私が言ったら、壁を挟んだ向こうの常盤は、微笑んだ。少し痩せて影が差しているように見えた表情に、光が差す。
そう、常盤は笑うと本当にいい。
「そう。穏やかに、いられたら良かったよね。俺もそう思う。多分、それは無理だったんだ」
と常盤は静かに言った。
「また来るね」
と私は言って、面会室を出る。
そんな仕事を通した付き合いが一年近くたち、そのうちに、彼の弟さんに改めて、紹介される。
「弟は事件のことはほとんど知らない。母さんが話さないから」
と言うのだ。
だからこそ、実家を早く出る必要があったんだ、と緋々来は言う。
その後交際を申し込まれ、常盤との面会で、緋々来と付き合うことになった、と報告した。
「そう、早かれ遅かれ、そうなるとは思ったよ」
としめやかに言う。
私は常盤に聞いてみたいことがあった。
「常盤は、本当に常盤なの?」
と。聞いた途端に常盤は、くすくすと笑う。
「すごい質問だね。事情を知らない人が聞いたら、頭がおかしいと思うと思うよ」
「そ、そうだよね」
「でも、答え合わせは必要かな?俺は碧衣と過ごせて幸せだった。こうして、面会にまで来てくれる。碧衣は本当に優しい人だなって思う」
「そんなこと、ないんだよ」
私は優しくなんかない。
何度も、いけないことを考えた。常盤と別れられたらって、解放されたらって思ったことがあったから。
「答え合わせは必要ないんだよ。碧衣は今知らないことは、知らないままでいいと思うんだ。今、碧衣が幸せなら」
私の幸せ?
「常盤が笑ってくれたら、それで良かったの。私は個展に行った日、幸せだなって思った。常盤と穏やかな時間が過ごせたから。初めてお花を買いに来てくれたときみたいな、あの、穏やかな感じが嬉しかっただけ」
私が言ったら、壁を挟んだ向こうの常盤は、微笑んだ。少し痩せて影が差しているように見えた表情に、光が差す。
そう、常盤は笑うと本当にいい。
「そう。穏やかに、いられたら良かったよね。俺もそう思う。多分、それは無理だったんだ」
と常盤は静かに言った。
「また来るね」
と私は言って、面会室を出る。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる