上 下
71 / 146
裏切りの気配

6

しおりを挟む

「依頼してくれたおかげで、お店が潤いそうだよ。ありがとう。またお願いします」
 私はおしまいの言葉、お別れの言葉を紡ごうとするけれど、
「子どもが生まれたって、常盤から前に聞いた」
 と緋々来が言う。

 緋々来は相変わらず厄介だ。似ているからこそ、核心に触れるのが上手い。
 結婚式に緋々来は来ていない。

 それに常盤は緋々来の話をしなくなった。常盤と緋々来がどんな関係を続けているのか、私は知らない。

「そうだね、学生結婚したから。もう三歳」とだけ言う。
「学生結婚ね。常盤は上手いこと希望を叶えたわけだ」と緋々来が言って、私は思わず睨みつけてしまった。

 常盤の希望?緋々来は何か私の知らないことを聞いていたの?
 数秒間睨み合いの時間があり、緋々来がお手上げのポーズをする。

「ここで探り合う意味はないから、やらない。けど。碧衣。気をつけろよ」
 と緋々来は言う。

「気をつける?」
「そう。オレはあの日、一旦降りた。でも、終わらせたわけじゃない」

 緋々来はおもむろに近づいてきて、私の頬に手を触れてきた。
「恐いものはもうない。奪おうと思えば、奪える」
 緋々来からじりじりと焼けるような強い視線を向けられて、背筋がぞわっとしてくる。

「何を言っているの?」
「ここからが本当の勝負だ」
 と言って頬にキスをしてきた。私は目を見張る。

「緋々来?」
「誰が、最後に残るかな」
 と言って、離れていった。

 
しおりを挟む

処理中です...