70 / 146
裏切りの気配
5
しおりを挟む
そのとき、
「花言葉は、幸福感だっけ」
と後ろから声がかかり、私は驚いて、花を取り落とした。
声の方を見たら、先ほど遠目に見たスーツの男性がいる。
「お疲れさまでした」
と私は声をかけ、足元に落ちた花を拾った。
「パフォーマンスは観てないだろ?」
と出し抜けに言って来る声音は、親し気で私は戸惑ってしまう。そんな関係性じゃない、と思うのだ。
「仕事ですから、仕方ないですよ」
私はそう言って、声の主を見すえた。少しだけ大人びた緋々来は、肩をすくめてみせる。
「碧衣は離れるとすぐに、よそよそしくなるからな」
と言うけれど、
「先にどこかに行ったのは、どっちだったっけ」
と私は答えてしまった。売り言葉に買い言葉だ。
緋々来は相好を崩す。
「変わってないじゃん」
「そっちこそ」
と返してしまってから、ああ、変わってないな、と思った。緋々来の視線が私の左手薬指に向けられる。
「常盤と結婚したんだろ?真面目に指輪するんだな」
「緋々来はしない派なの?」
と言って、自分でも自覚なく探りをいれてしまった。
「結婚してねぇよ」
と言う。
緋々来が結婚していないからといって、この場の会話がどうなるわけでもない。けれど、心に開いた隙間が更に広がる気がした。
私は、
「そうなんだ。まあ、周りはまだ独身ばかりだよね」
とコメントしておく。
これ以上、緋々来を無傷で話せる内容はない。これ以上踏み込んでしまうと、面倒な気配があった。
「花言葉は、幸福感だっけ」
と後ろから声がかかり、私は驚いて、花を取り落とした。
声の方を見たら、先ほど遠目に見たスーツの男性がいる。
「お疲れさまでした」
と私は声をかけ、足元に落ちた花を拾った。
「パフォーマンスは観てないだろ?」
と出し抜けに言って来る声音は、親し気で私は戸惑ってしまう。そんな関係性じゃない、と思うのだ。
「仕事ですから、仕方ないですよ」
私はそう言って、声の主を見すえた。少しだけ大人びた緋々来は、肩をすくめてみせる。
「碧衣は離れるとすぐに、よそよそしくなるからな」
と言うけれど、
「先にどこかに行ったのは、どっちだったっけ」
と私は答えてしまった。売り言葉に買い言葉だ。
緋々来は相好を崩す。
「変わってないじゃん」
「そっちこそ」
と返してしまってから、ああ、変わってないな、と思った。緋々来の視線が私の左手薬指に向けられる。
「常盤と結婚したんだろ?真面目に指輪するんだな」
「緋々来はしない派なの?」
と言って、自分でも自覚なく探りをいれてしまった。
「結婚してねぇよ」
と言う。
緋々来が結婚していないからといって、この場の会話がどうなるわけでもない。けれど、心に開いた隙間が更に広がる気がした。
私は、
「そうなんだ。まあ、周りはまだ独身ばかりだよね」
とコメントしておく。
これ以上、緋々来を無傷で話せる内容はない。これ以上踏み込んでしまうと、面倒な気配があった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる