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最高で最悪の予行演習
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しおりを挟む自分の中に引きずられるように感覚があるたびに、あん、と甘い声が出るのは、自分でも驚く。その度に、緋々来が私の顔を見るのがまた、不思議だった。
緋々来は上ってきて、去って行って、また上ってくる。繰り返しているうちに、頭の中が真っ白になって、最後に私のお腹の奥が震えたのがわかった。
身体を重ねて来た緋々来から、
「碧衣、いい」
と名前を呼ばれて、あ、まずいなぁ、と私は思う。
仲が良くて相性がいいのも分かっていた。初めては痛いと聞いていたのに、緋々来とだったらまったく痛くない。
だとしても、これは、予行練習なのだ。好きな人との大切な本番じゃない。
緋々来の顔が近づいてきたから、キスだな、と経験もないのに察した。
咄嗟に私は緋々来の口許に手のひらを向けた。
「や、やめよ。キスは好きな人としよう」
と言う。でも、強引に手を引き剥がされて、キスされた。
私は唇を噛んで、不満を視線で伝える。
そしたら、緋々来はごめん、つい、と言って笑う。
「ありがと、碧衣。練習出来た」
と緋々来は言うので、スッと心に穴が開いた気がした。
「おーけえ」
とすっかり気の抜けた返事をして、私は服を着る。
これは、かなり最悪なことをしちゃったな、と思ったのだ。
予行演習で、私の初経験はなくなった。
それは、緋々来もまた同じだ。この状況は、結構最悪なんじゃないか?と思う。
緋々来はなんで、大事な初体験を好きな人としなかったの?という話だ。
下手でもいいから、最初は好きな人とした方が良かったと思う。
だから、その後緋々来が何を言っていたのかは、あまり聞いていなかった。
帰るね、と言ってさっさと帰る。
緋々来の家からの帰り道、友達と、ああいうことをしちゃいけなかったな、と思った。
そして、その友達が、自分の親友とそういうことをするための練習をしたなんて、バカみたいだなぁ、と思うのだ。
花菜野には絶対に話せない。
話しちゃいけない秘密が出来てしまった、と思う。
それは、私にとってかなり辛いことだった。
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