上 下
11 / 146
身体交換の誘い

3

しおりを挟む

 緋々来は椅子から立ちあがると、私の方へと歩いてきた。

「あのとき、本当にいやだったんだな。完全に無視じゃん。SNSもメッセージも全部」
 一番触れてほしくない話題がきたな、と思う。けれど、単刀直入なのが緋々来と私のコミュニケーションでもあった。
 回りくどいことは基本的には、しない。

「協力はしたよ。その後の報告は、別に聞きたくないし」
 と言ったら、緋々来は唇を噛んでもの言いたげにこちらを見る。

「痛かった?」
 と聞くので、首を横にふった。でも、それ以上は話したくない。
 触れてはいけないし、それ以上踏み込んじゃいけない、と思った。

「その話はもうやめよ。会うにはあと数年は、間をあけよう」
 と私は言う。
「数年って。それはあけすぎ」
 と緋々来はツッコミを入れた。

 緋々来は大好きな友達だし、本音を言えば私たちの相性がいいのは分かっている。
 でも、くっついてはいけない。友達の彼氏なんだから。それに、私には彼氏がいる。

「常盤と、順調みたいじゃん」
 と言うので、
「そっちこそ。花菜野と順調みたいだよね」
 と言う。

 こういう同じ情報の投げ合いは、正直辛い。
 知っている情報の確認をし合っても、意味がない。
 私は花菜野と仲が良いし、緋々来は常盤と仲が良いのだから。事情は聞き及んでいた。

 ただ、私と緋々来の関係だけは、私が一方的に断絶していた。
「順調ってのは、進みもしない、終わりもしないことだろ」
「順調って言うのは、進むことだよ」
 と私は言う。

 しばらく無言で探り合いをした後で、緋々来がため息をついた。
「やめよー、ここで言い合ってんの。オレたちは向かいあっても無意味だから。感性似すぎてるから、絶対に決着つかないし」
 同感だ。

「じゃ、帰るね」
 と私が言えば、
「うわ、ホント分かんねぇ奴だな」
 と苛立ちまじりに、緋々来が手を取って来た。

 その瞬間、フワッと身体の力が抜ける感覚がある。

「え?」
 と私たち二人の声が重なった。

【コネクト完了、交換作業開始します】
 と部屋の中で声が響き、私たちは顔を見合わせる。

 次の瞬間には、私は鏡を見ていた。いや、鏡を見ているかのように、錯覚したのだ。
 自分の顔がそこにあったから。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

人魚王子の監禁求愛

NA
恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:44

ヒロインにはなりたくない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:222

離婚届は寝室に置いておきました。暴かれる夫の執着愛

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:504pt お気に入り:1,219

側室の私はヤンデレ国王の姓奴隷にされています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:5

オネエなエリート研究者がしつこすぎて困ってます!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:16

時々ヤンデレな妹が子作りしたがっている

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:40

婚約者と別れたら、五年後ヤンデレになって戻ってきてしまった!!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:87

昔助けた少年に全てを奪われ溺愛される心優しき魔法使いの物語

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:15

処理中です...