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身体交換の誘い
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しおりを挟む緋々来は椅子から立ちあがると、私の方へと歩いてきた。
「あのとき、本当にいやだったんだな。完全に無視じゃん。SNSもメッセージも全部」
一番触れてほしくない話題がきたな、と思う。けれど、単刀直入なのが緋々来と私のコミュニケーションでもあった。
回りくどいことは基本的には、しない。
「協力はしたよ。その後の報告は、別に聞きたくないし」
と言ったら、緋々来は唇を噛んでもの言いたげにこちらを見る。
「痛かった?」
と聞くので、首を横にふった。でも、それ以上は話したくない。
触れてはいけないし、それ以上踏み込んじゃいけない、と思った。
「その話はもうやめよ。会うにはあと数年は、間をあけよう」
と私は言う。
「数年って。それはあけすぎ」
と緋々来はツッコミを入れた。
緋々来は大好きな友達だし、本音を言えば私たちの相性がいいのは分かっている。
でも、くっついてはいけない。友達の彼氏なんだから。それに、私には彼氏がいる。
「常盤と、順調みたいじゃん」
と言うので、
「そっちこそ。花菜野と順調みたいだよね」
と言う。
こういう同じ情報の投げ合いは、正直辛い。
知っている情報の確認をし合っても、意味がない。
私は花菜野と仲が良いし、緋々来は常盤と仲が良いのだから。事情は聞き及んでいた。
ただ、私と緋々来の関係だけは、私が一方的に断絶していた。
「順調ってのは、進みもしない、終わりもしないことだろ」
「順調って言うのは、進むことだよ」
と私は言う。
しばらく無言で探り合いをした後で、緋々来がため息をついた。
「やめよー、ここで言い合ってんの。オレたちは向かいあっても無意味だから。感性似すぎてるから、絶対に決着つかないし」
同感だ。
「じゃ、帰るね」
と私が言えば、
「うわ、ホント分かんねぇ奴だな」
と苛立ちまじりに、緋々来が手を取って来た。
その瞬間、フワッと身体の力が抜ける感覚がある。
「え?」
と私たち二人の声が重なった。
【コネクト完了、交換作業開始します】
と部屋の中で声が響き、私たちは顔を見合わせる。
次の瞬間には、私は鏡を見ていた。いや、鏡を見ているかのように、錯覚したのだ。
自分の顔がそこにあったから。
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