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あいつの身体を手に入れた日

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「え?」

 思わず、目をあければ、私は緋々来の上にまたがっていて、お腹の奥に何かの気配を感じた。
 目の前の緋々来と目を見合わせる。そいつは、ちゃんと緋々来の姿になっていた。黒い瞳は眼光が鋭くて、見つめられていると逃げられない気分になる。

「もう、いいでしょ」
 と言って、私は緋々来の上からどこうとする。お腹の奥にある違和感をはやく取り去りたかったからだ。

 けれど、緋々来から手を掴まれて、
「終わってねぇよ」
 と言われた。
「戻れたし」

「まだ、碧衣は終わってないだろ」
「必要ないよ」
 といったら、手を引かれた。

 緋々来は眉根をぎゅっと寄せて、不満そうな顔で上下を交代させる。
「碧衣はオレといると、いつも怒ってる。常盤といるときとは大違いだ」

 緋々来の前髪が、私の額に触れて来た。
 緋々来の顔が近い距離に来て、私は顔をそむける。
 キスする距離だ。

 したくない、と言っても、手で顔を固定して強引にキスしてきた。
 常盤といるときの私を、緋々来は知らないくせに、と思う。何にも、知らないくせに。

「それは、緋々来もそう。花菜野には優しい」
 私は何度となく頭の中で繰り返したフレーズを、初めて口にした。花菜野には優しい。大切な彼女だから。
 彼女のために、予行演習をするほど、優しい。

 私が言えば、緋々来の表情が明らかに曇る。ほら、図星だ。

「もう、おしまい。試用試験も終わり。緋々来は花菜野のところに帰りな」
 私は緋々来の胸を押す。

「いくじなし」
 と緋々来は言うのだ。
「どっちが」

「お前が常盤と別れないからだろ」
「別れないよ、それは緋々来も同じ。もうさ、二度と会わないから」

「そうだな」
 と言われたことで、少しだけ心はえぐれた。
 自分で言っておきながら。
 友達だった緋々来との仲のいい時間を思い出すと、やっぱり、心が痛む。
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