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あいつの身体を手に入れた日

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 シーツを握りしめて、堪えるつもりだった。この初めての感覚が耐え難くて、どこにぶつけていいか分からなかったから。
 下腿にたまっていく熱と、それを放出しようとはたらく感覚は、私の知らないものだ。

 せっかく覚悟を決めかけたところで、そいつから放り込まれた言葉に苛立ちが止まらない。

「悪かったな、オレで。碧衣(あおい)がいやなのは知ってる。心底こっちだって最悪だけど。この状況を打破するためには、我慢するしかねぇんだよ」
 と苛立ち紛れに言われたので、こっちの導火線にも火がついた。

「我慢するんだったら、もうさ、しなきゃよくない?私だって心底、吐きそうなくらいいや」
 私が言ったら、一瞬そいつの焦げ茶色の目の奥に揺らぎが見えた。
 その目は「私」の瞳だ。思っていたことを何倍にも膨らませて口にする。実際には、そこまでいやなわけじゃない。

 売り言葉に買い言葉で口にしてしまったら、ベッドの上でそのまま喧嘩の流れになった。

「は?こっちは、別人だと思って、やってやろうって言ってんのに」
「私の身体に緋々来(ひびき)のが入ると思ったら、死にそう。絶対にいや」

 私は身体を起こして、緋々来から身体を離す。緋々来はため息をついた。
「お前ってホントそう。肝心な時にいつも逃げる」
 と言われるので、私のいら立ちはやまない。そうすると、なぜかそっちの方も収まらないので、深呼吸をする。

 心底怒っているのに、なぜか身体は別の動きをするのだ。
 一体何なの?この身体の仕組みが理解できない。

 信じがたいくらいにいやでたまらない。
 なんでこんな面倒な姿になってしまったの?と思う。

「逃げたくなるようなことをしたのは、どっちなんだか。別にいいけどね」
 と私は言って、ボトムスを履きなおし、Tシャツを着た。

 ベッドから身体を起こした緋々来は、胸元が露になったままだったので、胸元だけはちゃんと覆ってよ、と私は言う。
 自分の裸が目に入るのは、奇妙な感覚で頭が混乱してきた。そして、心底不服でたまらない。

「悪いけど、やらないで帰せない。このかっこのままじゃ、家に帰れないし。碧衣だってそう言ってただろ」

 そう言って、緋々来が私の手を掴んでくる。自分の手が緋々来の手を掴んだ。そして緋々来の手を動かしているのは、私だ。
 おかしな状況に置かれていた。


「オレが全部やってやるから」

「やだ」
「じゃなきゃ、元に戻れないだろ」
「やだ。なんで、緋々来なの」

「我慢しろ」
「やだ。緋々来だけは、いやだった」

「仕方ないんだって」
「大きらい」

「知ってる」
「緋々来だって他の子の方が良かったって思ってるくせに。ほとぼりが冷めたと思って、あんたが気まぐれに話しかけてきたから。こんな風に」

 私がそう言ったら、私の顔をした緋々来が、Tシャツの胸元を掴んできた。奇妙な感覚に、元々乱れていた私の感情はさらにぐちゃぐちゃになる。

「お前に、オレの気持ちなんか分かんねぇよ。いいから、四の五の言わずに、やればいい」
 と言ってキスをしてきた。

 自分の顔にキスされる感覚は、とてもじゃないけど耐えられない。私は首を振って逃れようとする。
 力はこっちの方があるはずだったけれど、のしかかるようにしてこられれば、やっぱり逃げられない。
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