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龍鳥の耽美なる戯れ
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「こんな技があったなんて」
と静はやや不服な声をあげる。
「ただし、公衆の面前では使えない」
と飛鳥は、見たこともないくらいな不敵な笑みを浮かべる。
「この方法では、腕輪を染めることは出来ないようね」
と静が言えば、飛鳥は静の手を手に取り、戯れ紛れに腕輪を揺すってみせた。
「腕輪を紗紅那の色に染められぬならば、それはそれでいいんだ。静の夫の名はくれてやる。代わりに、実はオレがすべてもらう」
「な、何を言っているの?」
「誰に何と言われようと、真実は真実としてある。静の腕輪が何色に染まろうが、その者に渡すつもりはない。不貞であれ、婚外交際であれ、関係ない。静と結ばれるのはオレだ」
「飛鳥、少し、おかしくなっていない?」
寛麒の謀りによる婚外交際に巻き込まれ、飛鳥もまた食えない男となってきてはいないか、と思うのだ。
「そうかもしれない。けれど、元より、五家には謀りや不貞ばかりのようだ」
「飛鳥まで、その慣習に乗ることはないと思うけれど」
「静は風だ。掴もうとすれば逃げてしまう。手に入れるためには、どんな手も使うさ」
飛鳥は静に手を貸して、起き上がらせてくれる。そして、かしずくのだ。
「もし、その腕輪が紗紅那の色以外に染まったならば」
と枕詞をつける。
「静龍様、私と婚外交際をしてくださりますか?」
飛鳥は静の手の甲に口づけをし、答えを請う。あの生真面目な飛鳥が言うこととは思えない。けれど、断る理由はなかった。飛鳥以外と結ばれるつもりは毛頭ないのだから。
「そのときは」と静も枕詞をつける。
「よろしくお願いいたします。飛鳥様」と言い、飛鳥の手を引いた。
とはいえ、一言付け加えておかなければいけない。
「武闘大会で手を抜いたら、この話はなかったことに。公衆の面前で私を倒す使える技を考えたらどう?」
静の言葉に、飛鳥はがっくりと肩を落とす。
「それはともかく、飛鳥。遊びましょう?」
「児戯でないことを望むよ」
「どう思う?」
静が飛鳥に抱擁を求めると、飛鳥は抱擁に応えて言った。
「静の好きでいい。こうして、触れ合えるだけで幸いだ」
風が強まり、二人の髪や着物が風をはらむ。静は少し迷いながらも、飛鳥の目を見て伝えてみることにした。
「私も先日、碧羅と紗紅那に関する書物を読んだの。お姉様に現代語訳を頼まないと理解は難しかったけれど。それを今、試してみてはいけない?」
静の言葉に飛鳥は息をのむ。視線が交わった。
意図は伝わっているのだろう。
「静のことだ。今回もまた、謀りの作戦では?」
と飛鳥が茶化した調子で言うので、
「もう、飛鳥。真面目に言っているのに面白がって」
静はやや不服である。
「冗談だ」
と飛鳥は言い、手の平で静の頬をなぞった。日向のような温かい体温が触れ、静は心より安心する。
「静の望むままに」
目を見合わせ、頷きあったあとで、互いに変化を行う。巽宮の空に碧羅の龍と、紗紅那の鳥が飛びあがった。強い光が放たれて、碧色の龍と緋色の鳥は姿を隠す。
その日、陽光がもう一つ現れた、と巽宮周辺の者たちは後に証言していた。
その後、巽宮当主である静に卵を成した一報が知り渡ったのと、武闘大会で静の夫が決まったのは、どちらが先であったのか?
婚外交際は行われたのか?
それはまた別の話だ。
了
と静はやや不服な声をあげる。
「ただし、公衆の面前では使えない」
と飛鳥は、見たこともないくらいな不敵な笑みを浮かべる。
「この方法では、腕輪を染めることは出来ないようね」
と静が言えば、飛鳥は静の手を手に取り、戯れ紛れに腕輪を揺すってみせた。
「腕輪を紗紅那の色に染められぬならば、それはそれでいいんだ。静の夫の名はくれてやる。代わりに、実はオレがすべてもらう」
「な、何を言っているの?」
「誰に何と言われようと、真実は真実としてある。静の腕輪が何色に染まろうが、その者に渡すつもりはない。不貞であれ、婚外交際であれ、関係ない。静と結ばれるのはオレだ」
「飛鳥、少し、おかしくなっていない?」
寛麒の謀りによる婚外交際に巻き込まれ、飛鳥もまた食えない男となってきてはいないか、と思うのだ。
「そうかもしれない。けれど、元より、五家には謀りや不貞ばかりのようだ」
「飛鳥まで、その慣習に乗ることはないと思うけれど」
「静は風だ。掴もうとすれば逃げてしまう。手に入れるためには、どんな手も使うさ」
飛鳥は静に手を貸して、起き上がらせてくれる。そして、かしずくのだ。
「もし、その腕輪が紗紅那の色以外に染まったならば」
と枕詞をつける。
「静龍様、私と婚外交際をしてくださりますか?」
飛鳥は静の手の甲に口づけをし、答えを請う。あの生真面目な飛鳥が言うこととは思えない。けれど、断る理由はなかった。飛鳥以外と結ばれるつもりは毛頭ないのだから。
「そのときは」と静も枕詞をつける。
「よろしくお願いいたします。飛鳥様」と言い、飛鳥の手を引いた。
とはいえ、一言付け加えておかなければいけない。
「武闘大会で手を抜いたら、この話はなかったことに。公衆の面前で私を倒す使える技を考えたらどう?」
静の言葉に、飛鳥はがっくりと肩を落とす。
「それはともかく、飛鳥。遊びましょう?」
「児戯でないことを望むよ」
「どう思う?」
静が飛鳥に抱擁を求めると、飛鳥は抱擁に応えて言った。
「静の好きでいい。こうして、触れ合えるだけで幸いだ」
風が強まり、二人の髪や着物が風をはらむ。静は少し迷いながらも、飛鳥の目を見て伝えてみることにした。
「私も先日、碧羅と紗紅那に関する書物を読んだの。お姉様に現代語訳を頼まないと理解は難しかったけれど。それを今、試してみてはいけない?」
静の言葉に飛鳥は息をのむ。視線が交わった。
意図は伝わっているのだろう。
「静のことだ。今回もまた、謀りの作戦では?」
と飛鳥が茶化した調子で言うので、
「もう、飛鳥。真面目に言っているのに面白がって」
静はやや不服である。
「冗談だ」
と飛鳥は言い、手の平で静の頬をなぞった。日向のような温かい体温が触れ、静は心より安心する。
「静の望むままに」
目を見合わせ、頷きあったあとで、互いに変化を行う。巽宮の空に碧羅の龍と、紗紅那の鳥が飛びあがった。強い光が放たれて、碧色の龍と緋色の鳥は姿を隠す。
その日、陽光がもう一つ現れた、と巽宮周辺の者たちは後に証言していた。
その後、巽宮当主である静に卵を成した一報が知り渡ったのと、武闘大会で静の夫が決まったのは、どちらが先であったのか?
婚外交際は行われたのか?
それはまた別の話だ。
了
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