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即位式

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 寛麒はひどく退屈していた。
 侍従たちが持ってきて金色に染め抜かれた、麒麟の紋が染め抜かれた王の装束や筋のような金飾りの垂れる王冠をみて、ため息が漏れる。

 金飾りをはじき、手先でもてあそぶ。ここ数日は、宰相や兵長など代わる代わる人がやって来ては去っていった。全ての権利が寛麒へと移行するための準備である。

 呪を浴びた王が退位を公言し、第一王子が即位する。全ては、我が父の策略だ。謀りに謀りを重ねるのが麒鞠のやり口である。退位後の王は、中宮内で余生を送る場合もあれば、中宮や神域から出る場合もあるようだ。譲位後の王は、産みの母にまつわる五行をまとうらしい。

 数か月前、
「そろそろ解放されても、構わないだろう。麒鞠王の座をお前に譲位する」
 と父である壮麒は言った。

「玄毬と白露の動きをご存知ですか?不満が溜まっているようです。今動けば、ここぞとばかりに虎煌殿、晶亀殿が動き出すのは目に見えております」
「虎煌に晶亀か。相変わらず面倒くさい奴らだ。つまらぬな。では、寛麒。お前が縁組を行い、大義名分を得て即位すればよい」

 父の物言いに、さすがの寛麒も舌を巻く。父と現在乾宮当主である虎煌、坎宮当主の晶亀とは旧知の仲である。とは言え、穏やかなる関係であるのはたしかで、それぞれの思惑が交錯しているのは、寛麒も把握していた。

「今であれば30年運である、碧羅との縁組が行えるだろう」
 自分の母が碧羅の者であることは知っていた。とはいえ、皆までは聞かされていない。麒鞠の秘密に関しては、思うところはあるが、その実は明かされていないからだ。

「私が即位するのが最良だとは思いません。とりわけ玄毬に母上が不遇に置かれていると思われては、問題があるかと。碧羅が力を持ちすぎることを懸念する声が多いです。朗麒が即位する方がよいのでは?」
 と寛麒が返せば、壮麒はひどく退屈そうにして、
「では、お前が好きに取り計らえばいい。いずれにしても、近々譲位するつもりだ」
 と言うのだった。

 なんて勝手な、とは思うが、その勝手気まま具合は、寛麒にも理解できる。麒鞠は麒麟として洗礼を受けてしまえば、その時点から自由を失うのだ。自由と求める心は、人一倍強くなる。

 好きに取り計らえ、と言ったきり、壮麒は秘密裡に譲位の準備を着々と進めていった。寛麒からすれば、青天の霹靂である。婚姻をせよと言われても、遊び相手はともかく、懇意にしている姫はいない。

 
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