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麒麟王の退位
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しおりを挟むその夜、麒鞠王退位の一報が牢の中にも届く。そして、次期王として寛麒の名が周知される。一夜のうちに広がった一報により、乾宮内がざわめき始めたのを静は感じた。更に翌朝になり寛麒の即位式が行われると通達が来たことにより、乾宮内は大わらわだ。
投獄されているとはいえ王子后である静もまた、無関係ではない。寛麒が即位するとなれば静は王后となるからだ。
翌朝、虎雨がやって来て、牢から出るように言う。五家の協定にかけると言うのだ。五家の協定では、出身家以外の、各当主や次期当主格が裁きの内容が正当であるかどうかを判断する。
裁判所へ連れていかれ、静にくだされた判決は、王后の座からの退位だ。権力に固執していない静からすれば、随分と手優しい判決だ、と思う。とはいえ、寛麒の即位に際し、先手を打たれた、とも言えるだろう。
四家の判断は、麒鞠王と麗虎、離宮当主、晶亀や次期当主で行われるようだ。麒鞠王は退位の意思を示しているとのことで、寛麒に判断を委ねる可能性が高い。虎煌も含め、二対二の構図を想像していたようだ。しかし、各当主から送られた通知により、満場一致により静の王后退位が決定した。
眉一つ動かさない虎煌ですら、さすがに驚きを隠せないようだ。離宮当主と寛麒は反対するだろうと踏んでいたに違いない。
虎煌に「構わないな?」と問われ、頷く。「判決には従います」と告げた。
「これで私の身は自由ですね?」
「ああ。ただし、たった今からお前は、王子后でも王后ではない」
「分かっております。しかし、後悔なさいませんか?私を釈放してしまって」
「判決が出た以上、お前を留めておく理由はない。いずれにせよ、風は留めてはおけぬものだろう。とはいえ、王子后の資格を失った今のお前の立場では即位式に行くことも叶わぬな。当主か次期当主格のみ。出戻りのいち姫は門前払いだろう」
と虎煌は言う。静は虎煌の言葉に目を見張る。思いがけず力添えを受けたような気がしたからだ。静は一礼し退廷し、すぐさま馬を走らせて震宮に向かった。
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