神獣たちの戯れ・碧羅姫と麒鞠王子の縁組~婚外交際のすすめ~

KUMANOMORI(くまのもり)

文字の大きさ
上 下
68 / 90
裁き

6

しおりを挟む

「虎牙が愛のなんたるかを語るなんて、天変地異でも起こるのでは?」
 静の皮肉に笑い、虎牙は言う。
「麒鞠王子后であれば当然、知っているだろ?」
 静へ思わせぶりな視線を送って来るのだが、静は真っ向から受けるつもりはなかった。

「さあ」
「試したことはあるか?」
 こちらを伺う視線には、悪戯な色が浮かんでいる。しかし、ただの悪戯ではなく、静の反応を伺う意図が見て取れた。

「虎牙はよほど欲求不満かと思われる。夫婦の機微を暴こうなどとは」
 声が引きずっていないか、と静は思う。色恋の話は聞き及ぶ分にはいいが、自分事となればまた取り扱いに困るものだ。虎牙は豪快に笑う。

「食えない女は好きだよ」
「食えない殿方は嫌い」
「それはどうだか。お前の周りは食えないものばかりだと思うが。信用はないようだが、敵ではないつもりだ。調べていて色々なことが分かった。もう一つ面白いことを教えてやる」
「何?」

 こっちに来い、と虎牙から手で合図を送られ、静が近づくと髪を引かれる。鼻先が当たるほどまで虎牙の顔が近づき、静は質の悪い悪戯を察した。

 その瞬間に、静の髪の毛を火の気が走り抜けた。虎牙は鼻先に炎が当たりそうになるのを、寸でのところで避ける。
 虎牙はひゅう、と口笛を吹き、手で火の気を払う。

「さすがに丸腰では来ないか。厳重に護られているな」
「悪戯も行き過ぎれば痛い目を見る、教訓でしょ」
「悪戯、か。この程度の遊び、以前の静龍ならば、余裕だっただろうに。飛鳥の奴、恐ろしい所有欲だな」
 と虎牙は呆れたように言う。

「子ども時代の児戯と一緒にしないで。それで、面白いこととは?」
 耳を貸せ、と言う虎牙に静は首を横に振る。
「同じ手は退屈だと思わない?」
「たしかに。しかし誰が聞いているか分からない。婉曲的になるが、教えてやるよ。兄弟で同じ女を愛したが、片方は愛も得られなければ、愛の結晶も得られなかった。しかし、時代が下りかの者は権力を手にする機会を得ている。あるいは、妹が不遇に置かれているのを知り、何か手を打ちたいと思っていた者がいる。罪な碧羅、愚かな白露、そして、不遇の玄毬という物語だ」
 婉曲的ではあったが、年代的に重ね合わせれば理解が可能だ。しかし、兄弟という単語に驚きがあった。

「それが真実だとして。虎牙はどう思うの。「兄弟」が王として立つことを望むの?あるいは、根が失われ、麒鞠の統治する五家が改革されることを望む?」
「どちらも望まない。何度も言っているが、俺は過去の遺恨に興味はない。例えばそれが、身内に関係することであっても」
「そう。では、協力して。根が失われて、ここで、武闘大会が行われないのは困るもの」

「協力とは何をすればいいんだ」
 虎牙に問われて静は柵の間から、それを手渡した。
「これは?」
「友好の証よ。火の気と金の気で満たせば坤宮の礎になる」
「どういうことだ?」
 と問う虎牙の言葉に、静は首を振る。気配を感じたからだ。

「それでは虎牙、婚外交際を始めましょう。五家の平穏のために。願わくば、璃蛇様や瑠亀様ともお付き合いが出来れば、よいのだけれど」
 と片眉をあげ静は言った。気配を感じたので、静もまた婉曲的な表現を取る。しかし頭の回転のよい虎牙のことだ、意図は通じるだろう、と思った。

「なるほど。麒鞠王子后は随分と節操がないと見える」と虎牙がわざとらしく肩をすくめて見せるのは、見張り兵が戻って来たからだ。
「じゃあな、謀りの姫に幸いを」
 と皮肉を言いつつ去っていくのは、虎牙らしい。兵が戻って来たので、静は寝台に腰をおろし一息をつく。

 四家が麒鞠の根が必要なように、麒鞠は四家の支えがなければ成り立たない。だとすれば、麒鞠の祝福は本当に祝福なのだろうか?ひょっとしたら呪いではないのだろうか、と静は思う。だとしても麒鞠に変わって、五家を治められるものはいない。
 静が出来ることは、自分のできる限りの力で今周りにいる人たちを出来るだけ幸福にすることだ。そのためには、周りとの協力も必要になる。現状は事の成り行きを見守るほかないのだった。


 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...