上 下
64 / 90
裁き

2

しおりを挟む

「虎雨様。お引き取りください。私が求めていたのは、あなたではありません」
「無理な相談です」
 虎牙とよく似た容姿に、柔らかな表情を浮かべている虎雨の金気が高まるのを感じ、静は身構える。虎雨の気は、虎牙とは違いゆらゆらととらえどころがなく、かえってやりにくいと感じた。

「誰からの依頼なのかは分かりませんが、上手く利用されているだけです」
「静龍様には関係のないことです」
 四方から細い鎖が飛んできて、静の身体をとらえにかかる。静はすんでのところで交わすが、卵の方へと伸びた鎖には手が届かない。

 しまった、と思った瞬間に、隙が生まれ左手首に鎖が巻きついた。虎雨が鎖を引き寄せるのが分かったので、
「ち」
 と舌打ちをして、静は手首をひねり無理やり外す。

 激痛が走るが、卵の様子が気になった。卵の封印は麒鞠の封印だ。金気ですぐに破れるとは思わなかったが、虎雨が鎌を振りかざすと、割れるような音がして封印が解けた。
 静は蔦を放り、卵を巻き取って腕の中に収める。しかし、左腕の痛みで反応が鈍っているのはたしかだ。

「静龍様、お渡しください。さもなくば強引な手を使わざるを得なくなります」
 卵に関しては、協力してもらった手前、必ず護らねばならない、と思っている。
 傷を付けてしまえば、静は自分を許せない。
 静は卵を即座に蔦でくるみ、床に片手をついた。虎雨は静が体勢を崩したと思ったようだ。搦め手として、鎖を放って来る。静は床に木気を放つ。太い幹が床から現れ出た。

「なに」
 虎雨が目を見開いた瞬間に、静龍は幹に蔦を絡め、幹に結びつける。さらに伸びていく幹は天井を突き破った。
「連。今のうち」

 静が声をかけると、幹に結ばれた卵は、光を放ち割れていく。天井のすき間から、桃色の尾を持つ、橙色の鳥が飛んでいった。
 虎雨が変化を行い、白の虎が幹を登っていこうとするのを見て、静は風を練る。風気を放って虎雨を数秒足止めし、産屋の窓から外を見た。無事に逃げおおせたのを確認し、ホッと一息つく。

 しかし、刀が頬に突きつけられる気配を感じ、静は振り返った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

処理中です...