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謀略
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しおりを挟む寛麒と静の寝屋というのは、古い話から今の話まで、さまざまな話をする場所だ。成人した男女であるのにそんなわけがあるか、と虎牙ならば言うかもしれないが、二人の間には欲を帯びた交わりは一切ない。
寛麒は東堂から持ってきた書物を手に、静に話を聞かせてくれる。静は自分の思い出せる限りの昔話や寝物語を寛麒に話すことが多い。
静の作戦の話も寝屋で行われた。静は半変化を行い寝台で身体をくつろげながら、鈴龍の幻影に出会ったこと、そして語ってくれたことを寛麒に話す。静は少しだけ心配していたのだ。
寛麒が麒鞠の秘密を知り、苦しむのではないか。鈴龍の幻影に出会えなかったことを悔やむのではないか、と。
しかし、静の予想に反し、寛麒の反応はあっさりとしていた。
「想像はしていたよ。だからこそ、静龍を選んだというのもある」と言うのだ。
「なぜ、私を?」
「そなたに思い人がいること、そして、遺恨に耐えうる強さがあると思ったからだよ。それに、私がこれまで何も経験がないと思うかい?」
「そ、それはどのような意味でしょうか」
「麒鞠に関しては、様々な噂話があるかと思うけれど。麒鞠の王子は、手が早く、無責任だ、と皆口にしているだろうね」
「それはあくまでも噂では?」
「そう思うのかい?」
寛麒は悪戯に笑いながら、静の背を撫でてくる。煌びやかな容姿に、そつのない身のこなしを身につけ、幅広い教養を持つ寛麒は、どの家の者であっても、仮に神獣の加護を受けていないとしても、人目を引く存在であるのは間違いがない。
「まさか、本当にそのような?」
「過去の話とはいえ、幻滅されてしまうかもしれないな」
「元より減点から始まっていますので、幻滅したとてこれ以上の引き算は不要ですが」
と静は言う。
「ハハハハ!中々手痛いね。たしかに、始めより期待させてしまえば、後は引き算するのみ。ましてや麒鞠の婚姻は、四家の運に左右される。どれだけ逢瀬を重ねようが婚姻は出来ない上に、私はそもそも欲が薄い」
「欲が薄いかどうかは、疑わしいものですが。婚姻出来ないのは、不自由かと思います」
「もし欲深ければ、寝屋で美しいそなたを目の前にして、手を出さずにはおけないよ。多少強引にでも組み敷いて、美しさの秘密を紐解きたいと思うだろう。飛鳥のように」
「ひ、飛鳥のことを持ち出すのは卑怯ですよ!」
「無論、人の姿にて、静龍を暴くことはできるけれど。それをしたところで、飛鳥の恨みを買い、静龍を惑わすことになるだけだ。それ以上に、今のこの感覚が心地よい」
寛麒は静の髭を指に絡めてみせる。
「いいえ、簡単に暴くことは出来ないでしょうけれど」
静が強気に言うと、寛麒は笑った。
「ただ、この感覚が心地よいとは、私も思っています。寛麒は私にとって兄のようなもの」
「嬉しいよ、静龍。それに、ある意味では、それは真実だ」
「そうですね」
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