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謀略
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しおりを挟む静の作戦は卵産を行ったというはったりだ。うわさを聞き付けた者が、どのような行動を起こすのかを図る意図がある。
「協力はするつもりだ。けれど、一度頭に浮かんだものを、消すのは難しい。どうすればいい?」
嘆息しながら飛鳥が静の腕を引き、身体を自分の方へ引き寄せるので、静は飛鳥と抱擁する形となった。
いつもの飛鳥がうららかな春の日の陽光ならば、今の飛鳥は、じりじりと地を焼く、夏の日の陽光だ、と静は思う。高まっていた静の気は、どんどん吸い取られていく。
「今の飛鳥は熱すぎて、私の気が流れ出て枯れてしまう。湯殿で少し気をおさめて欲しい」
「勿論、一緒に来てくれるんだろう?」
「湯浴みをやめようと言ったのは、飛鳥なのに」
「当時の静を護るためだよ。オレは自制心に自信がなかった」
「今は護ってはくれないの?ひとたび契れば、もう私は護る対象ではない?」
静の言葉に飛鳥はこの上なく、困った顔をするのだった。
「今日の静は、意地悪だ」
「嘘。私も飛鳥に触れたかった。鬼脈の中で夢を見たの、初めて出会ったときの、不遜な飛鳥を」
「当時のオレはあまりにも物を知らずに、子どもじみていたと思う。静は良く懲りずに話しかけてくれたと思う」
「巽宮で稽古をつけている飛鳥が気になっていたから。絶対に親しくなると思った」
「オレは、こんなに静のことが愛おしくなるとは思わなかった」
自分を偽らない点において、飛鳥は変わっていない、と静は思う。そしてたとえ些細なことであっても、真摯に向き合ってくれるところもまた、変わっていないのだ。静は飛鳥の手を引き湯殿へ向かう。
「久しぶりに湯遊びをしましょう」
着物の袖をたくし上げて、静がそう言うと、飛鳥は眉を寄せ唇を曲げる。
「児戯で煙に巻くつもりだろ?」
「それではいけないの?」
「それではイヤだ。今日ばかりは、静の言うことは聞けそうにない」
静の着物の帯を触り手でいじらしく遊ぶ。子どもじみている飛鳥がおかしくて、静は笑いが止まらない。
「寛麒様の影響だろうか。静は意地が悪くなった」
と飛鳥は言う。
「飛鳥はなんだか、子どもみたいに可愛らしくなった」
と言えば飛鳥は不服そうにして、
「子どもであったなら、もっと楽だろうに」
とこぼすのだった。
けれど、火の気をおさめるという名目での触れ合いは、決して児戯ではなかった。
帯や髪をほどき、湯を浴びせかけどちらが優勢になるのかと取っ組み合いをしてみても、子どもの遊びのようにはならない。どこか、滲んでしまう色香や飛鳥の再三による「おねだり」により、結局静は根負けすることになった。
この関係がどのような歩みになるかは分からないが、静だって飛鳥を手放すつもりはないのだ。離れで過ごしたのちに、静と飛鳥はそれぞれ離宮と中宮に帰っていく。
こうして飛鳥との結託により、静ははったりを決行することとなったのだ。
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