57 / 90
謀略
3
しおりを挟む「鈴龍様のことはご存知ですか?」
静の言葉に、王后の目の色が変わるのが分かった。
「なぜ、あなたからその名が出てくるのかは分かりませんが、勿論存じ上げております。寛麒の母君であり、王を愛した方です」
「その言いぶりですと、王后様は、王を愛していないかのように聞こえます」
王后は首を横に振る。
「尊敬はしています。けれど、私はいつも惑ってばかりでした。鈴龍様のような覚悟はありません。ゆえに、今この軋轢が生まれているのでしょう。ただ、祝福を与え、全てを受けとめる王の孤独を理解はしているつもりです」
「そうですか」
「私の知っていることはお話しましたよ。子のことをお聞かせ願えないかしら」
「私にまつわる婚外交際の噂はご存知ですか?」
「それは、紗紅那の?」
「はい」
「非常に強い火の気を持つ、離宮当主にふさわしい者だと聞いています。もし、それが真実ならば、ゆくゆくは麒鞠王の座は確実でしょう。だとすれば」
「あの子の身は、危険でしょうか?呪を浴びせられることもありますか?」
静の言葉に、王后は目を丸くする。静は王后を謀るつもりはない。とはいえ、種は蒔いておかなければいけない、とも静は思っている。全て通じたかどうかは分からなかったが、王后は頷く。
「危険です」
「だから麒鞠の子は、幼いときに人を避けるのですね」
「そうです。けれど、静龍あなたはそれをどこで?」
「愛息を案じてやまない神獣が教えて下さりました。恐らく、王后様が朗麒様、楊麟様を案じておられるように」
「そうですか。かの方は、どこまでも、覚悟のある方だったということですね」
「お話できてよかったです。王后様を私は信じます。私のことも信じていただければと思います。決して、誰かを傷つけることはしません」
静がそう言うと、王后は静の元へと手を伸ばし握手を求めてくる。
「寛麒は良き人を迎えましたね」
と王妃は言う。静が握手に応え、
「食えない王子に、食えない姫。私たちは恐らくそのようなものかと思います」
と言うと王后は笑った。
王后との話はそうして、終わりとなった。
本来静は嘘が得意ではない。ただ飛鳥よりはまだ、ましに嘘をつけるようだ。この話を受けて王后自身は何かを起こすとは思えないが、王后との関係により、力を笠に着た者が動き始める可能性は高い。
裏のとれている兄妹たちには既に話をしており、協力を仰いでいる。虎牙に関しては、静は少し警戒してしまうのだが、飛鳥は虎牙のような豪快な者が謀りに与するとは思えない、と言うのだ。広く吹聴してもらいたい、と言う点においては、虎牙向きの役割だとは思う。
寛麒に至ってはまったく問題はなく、知らせを聞いた四家の者が謁見を求める度に、
「普段より懇ろにしておりますゆえ、子が出来るのも必然かと思います」
と涼しい顔をしてさらりと嘘を吐く。
内情を知らない者にしか通じない弁であることは、静も寛麒も分かっていた。麒鞠王子后が子を成したという一報を受けて、どのように反応するのかは、試金石となる。
4
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる