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神獣の目覚め
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しおりを挟む変化を解いたのはほとんど同時だった。
飛鳥の腕が背にまわるのを感じ、静もまた飛鳥の抱擁を受けとめる。
「心配した」
変化を解いたばかりの飛鳥の身体は熱かった。いつもの陽だまりのような気ではなく、燃え上がる炎のような熱気が満ちている。
しかし、散々火気を放っていたせいか、飛鳥自身からは火気が足りないようにも感じられた。
「ごめんなさい」
静は自らの木気を送り込み、飛鳥の気を補う。
「無事でよかった。静を失うことを考えたら、恐ろしかった」
飛鳥は静の着物を見て、眉根を寄せる。呪こそ消えているが、着物から覗く皮膚には傷跡は残っていた。静の腕を取り、飛鳥が何かを言いかけたのを感じ、静は首を横に振る。
「大げさな。私はそこまでやわじゃない」
と言ったものの、鈴龍がいなければ危険だったのはたしかだ。
「知っている。でも、心配なものは心配なんだ。傷つくのは見たくない」
「飛鳥に心配をかけるなんて、失態ね。護られるようでは情けない」
飛鳥が静を傷つける者は許せない、と続けて小声で言うのが分かり、静はあえて、強気なことを口にする。
「強気な静もいいけれど。たまには、護らせてほしい」
飛鳥の両掌が静の頬に添えられるが、
「おいおい、それよりも先にはいくなよ?目のやり場に困る」
と虎牙が茶々を入れた。静と飛鳥は思わず、顔を見合わせ身体を離す。
「静龍、何があった?」
と虎牙は言う。
「呪に触れて、飛ばされたみたいね。鬼脈にもかかわらず、私の警戒が足りなかったみたい」
と静は言う。
飛鳥は怪訝そうな顔をしていたし、虎牙も納得したわけではないようだ。璃蛇は何か言いたそうにして、唇をかみしめていた。ただ、ここで璃蛇を問いただすのが最良だとは思わない。
「とてつもない木気だが、それもまた鬼脈のせいか?」
と虎牙が問う。
「途中で碧羅の神獣にお会いしたの。それゆえに、ここまで戻って来れた。神獣のおかげで、一時的に木気が高まっているみたい」
「よい木気は、存分に剋したいものだ」
と麗虎と同じようなことを言う虎牙に、静は苦笑する。
「鐘が鳴ったが、劉龍たちは制圧したのだろうか?」と飛鳥が言う。静は頷いた。
「さっき兄上に会ったの。私たちも鐘を鳴らしましょう」
虎牙が首巻の中から、鐘と木槌を取りだした。そして、木槌で鐘を鳴らす。重厚な音が響きわたり、静は安堵した。
これで艮宮、坤宮それぞれの廟で封印が可能だ。寛麒と朗麒にこの音が聞こえただろうか。
「これで任務は完了だな。艮宮へ戻ろう」
と虎牙は言う。
恐らく四人のうちの誰もが、すべて解決したとは思っていないだろう。
艮宮に戻る道中では、虎牙がつとめて明るく振る舞っているのを感じたし、飛鳥は虎牙と璃蛇の二人の様子を伺っているのを感じた。璃蛇は虎牙に茶化されて会話をしているが、どことなく上の空のようだ。
それぞれの思いや思惑を読み取ることは不可能だ。ただ、一つ、静が確信したのは、真実が何であれ、護るべきものは変わらないということだ。
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