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神獣の目覚め
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しおりを挟む静がまず出会ったのは、坤宮からの部隊だった。道なりに進んでいくと、劉龍や麗虎、瑠亀に出会う。出会いがしらの兄の表情と言ったらない。
「静!着物が切れているが、無事か?」
「これは、魔物にやられたの」
静はそう言うと、劉龍は一瞬疑いの眼差しを向けた。劉龍の感覚であれば、鬼脈内の魔物程度では、静が不覚を取るとは思えなかったのだ。けれど、静が牽制するように、視線を送っていると、劉龍は頷く。
「木気があまりにも強いな。どうしたんだ?」と言う。
「神獣の幻影で出会ったの。どうやら、父上の姉君のようで」
「父上の姉君?なぜ?」
劉龍の問いかけに、静は首を横に振る。
「ここでは、話しにくい話なの」
「しかし、艮宮の部隊はどうした?」
「はぐれてしまったの。けれど、鬼脈内はほとんど木気に満たされている様子」
「そのようだな」
劉龍はそう言うと、
「そなたが持つのは、素晴らしい木気よな。ぜひ私と手合わせいただきたいところ」
と麗虎が言うのだった。
「私だけの気ではないかと思います。神獣のご加護により、一時的に高まっているようです」
「なるほど」
「制圧されたようならば、鐘を鳴らしてはどうか」と瑠亀は言う。静は瑠亀を見るけれど、他意は感じられない。瑠亀と璃蛇は二人で何かの役目を共有しているわけではないのだろうか。
「そうだな」
と劉龍が言い、帯に下げていた袋から鐘を取りだす。片手に鐘を吊るし、もう片手で木槌を手に持ち、打ち付けた。小ぶりな鐘からなるとは思えないほどの、重厚な音が鳴り響く。五行が全て混ぜこまれている音色だ、と静は思った。
「飛鳥達の部隊の進捗はどうだろうか?はぐれたとなれば、飛鳥が心配しているかもしれないな。それどころか、鬼脈を燃やし尽くすかもしれない。あいつは、お前のこととなると人が変わる」
と劉龍が肩をすくめながら言う。
「そんなことは、ないと思うけど」
「本人には分からないものだ。木気が満ちている。変化していけば早いのでは?静、お前は風の気が強い、すぐに飛鳥の元へたどり着けるだろ」
静は頷いて、変化を行う。
碧色の龍の姿を取り、木気を高めてみた。
辺りに風が生まれたので、静は風に乗り、洞窟を駆け抜ける。龍の姿を取ると、全ての生きとし生けるものが発している気を感じ取れるのだ。火の気、飛鳥の気が、遠くの灯のようにわずかながら感じられる。高まっている木気が火の気へと注がれていくのだ。
木気にあてられて、常緑樹やつる植物などが芽生えていく。鈴龍の残した幻影の木気は、凄まじいものがあった。どのくらい進んだだろう。長い長い洞窟の先に、気配を見つける。火気と金気、そして水気だ。
「静」
火気にのせて、自分を呼ぶ声を聞いた。次から次へと浪費していく火気を感じ、静は胸が痛くなる。そこまで心配しなくてもいいのに、と思った。
木気が満たされているとはいえ、火気を放ち過ぎれば、飛鳥とは言え疲弊してしまうだろう。飛鳥の気を目指し、静は速度を速めた。
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