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神獣の目覚め

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 鈴の音がして、静は目を開ける。
 天井や壁には樹木が根差しており、緑豊かな空間だ。静は起き上がると、自分の身体を確かめてみる。身体の呪は消えており、手足の自由が利いた。

「目覚めましたね」
 と声がかかり、声の方を向くと、碧色の鱗を持つ龍がいる。碧色の龍は苔むした岩盤の上にとぐろを巻き、こちらを見ていた。碧色の鱗と黄金の瞳を持つ龍だ。鱗の色は、静に加護を与えてくれた神獣にも似ていた。

「あなたは?」
「私は幻影。あなたの持っていた鈴の中に封じられていました。本体の名を鈴龍(れいりゅう)と言います」
 まるで鈴の音のような澄んだ声で龍は語る。

「鈴龍様?どこかで聞いたことが。碧羅の方でしょうか?」
「元々は、碧羅の出です。そしてその碧色の髪。あなたもまた、碧羅の姫ですね」
 龍は静のそばに近づいてくると、その尾の間に静を座らせた。

「はい、名を静龍と申します」
「そうですか。静龍。あなたがその鈴を持っているということは、あなたは寛麒のいい人と言うことでしょうか?」
「事情が入り組んでて少々ややこしいですが。親しい仲ではあるかと思います」

「あの子には、親しい人がいるのですね。それは私としては、とても嬉しいことです」
「あなたは、寛麒の?」
「母です」

「は、母上!?では、父上、邦龍(ほうりゅう)のお姉様ですよね?」
「あなたは邦龍の?邦龍は震龍になりましたか?」
「はい、父は現在の震龍です」
「そうですか。たしかに、邦龍は邦龍の器でした」

「寛麒はあなたのこのお姿を御存じなのでしょうか?」
「今こうして現れているということは、見ていないのでしょう。あの子が産まれてすぐに、今のこの姿を鈴へと封印しました。今現在の本体がどうなっているのかは分かりませんが」
「なぜ、封印なさったのです?」
「母として純粋にあの子のことが心配だったこと。そして、もし、その時が来ているのであれば、真実を話そうと思ったのです」

「真実ですか?」
「そうです。麒鞠家で生きる者の秘密を伝えたいと思ったのです」
「それでは、あなたを寛麒に引き合わさなければいけませんね。寛麒はあなたのことを恋しく思っている節があります。きっと喜びます」
 静の言葉に、鈴龍は顔を寄せる。

「いい人ではないとして。しかし、あなたは、寛麒のことを思ってくださっている様子。一体どのような関係なのでしょう?」
「偽物の妻です。寛麒とは偽物の婚姻式を行いました。麒鞠は今、ややこしい事情にあるようですので、私は協力しております」
「なんと!非常に愉快なことをしているのですね!」
 声が明らかに弾むのが分かり、静は思わず笑みがこぼれてしまう。寛麒にそっくりだ、と思ったからだ。

「私の呪を解いてくださったのは、鈴龍様ですよね?」
「そうです。あの呪は恐らく玄毬の秘伝。なぜ静龍あなたにほどこされたのか分かりませんが、本来、人へと向けるものではありません。五行の均衡を整えるために、刻印する呪のはずです」

 静は璃蛇の様子を思い出す。「役目」と彼女は言っていた。
 璃蛇はやむを得ない事情により、呪をほどこさなければならなかった?
 しかし、玄毬の姫である璃蛇の役目とはなんだろう?

「私と寛麒との婚姻に関係しているのでしょうか?それとも次期麒鞠王の座に関係しているのでしょうか?」
 静の言葉を受けて、
「寛麒には兄弟がおりますか?」
 と鈴龍は尋ねてくる。
「はい、弟君と妹君がそれぞれ一人ずつ。朗麒様と、楊麟様と言います」

「なるほど。私は、当時の世情しか知りませんが。当時は玄毬の運でした。恐らく、現在の麒鞠后は玄毬出の方のはず」
「そうです」
「恐らく、静龍あなたが受けた呪は、前世代の遺恨を引きずっている者が施したものなのでしょう。玄毬と麒鞠との婚姻のもたらした遺恨です」
 鈴龍の言葉の意味は理解しがたかった。玄毬の運で行われた婚姻が、なぜ遺恨となるだろう?静はそのまま、疑問を鈴龍へと告げた。

「婚姻が遺恨になるとは、不思議だと思います」
「寛麒から私と現在の麒鞠王、壮麒(そうき)との話を聞いていますか?」
「はい。碧羅の運ではなかったがゆえに、婚外での交際により、その」
「フフフ、その通りです。しかし、それもまた正確ではありません」
「と言いますと?」
「私が壮麒のことを慕っていたことは本当です。それに、彼のために尽力しようとしたのは、事実。しかし、麒鞠は四家に祝福を与える者たち。清浄であり、全ての五行の加護を受けています。それゆえに」

 鈴龍は、静への顔を寄せてきて、木気に乗せた囁き声で告げた。静は目を見開く。そのような話は誰からも聞いたことがなかったために、驚かずにはいられない。

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