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神獣の目覚め
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しおりを挟む遊びに出かけた巽宮の庭園にて緋色の少年を初めて見たとき、静は心躍るのを感じた。
まだ幼さの残るその少年は、緋色の袴を身に着け、紗紅那の親族と共に訓練を行っているのだ。
「つい、紗紅那の方ですか?」
と声をかけてしまう。
姉も妹も武術に興味がなく、静はいつも兄と手合わせをしていた。兄は静よりも上の使い手で、同じ木気を帯びているがゆえに、静はいつも敵わない。
それでいて、兄は静のことを中々の使い手だ、と言い含めてしまうので、静は退屈この上ないのだった。女だから、まだ幼いからと甘く見られているように感じたのだ。
同年代で、拮抗している相手と組手をしてみたい、と常々に思っていた。静が声をかけると、緋色の少年は一瞥すると、
「そうだが、碧羅の姫か?」と言う。
少年はさして興味を引かれない、と言いぶりだった。訓練の邪魔だ、とでも言いたいようだ。
「私と組手をしていただけませんか?」
と静が率直に告げると、
「姫と組手をする趣味はない」
一言で言い捨てられてしまう。
「なぜです?」
と静が問えば、
「対等に闘おうとすれば、泣く。泣けばよいと思っているのは好かない」
と言うのだ。
「誰のことを言っているのです?」
「親族の者や妹だ。我が家では兄上も武には興味が薄い」
「では、私と試してみてください。それに、兄上は中々の使い手ですよ」
「知っている。碧羅の劉龍は同門の兄弟子だ」
「私も入門したいと思っております」
「女人が?」
その言いぶりに、静は少しムッとした。散々言われてきたことではあるが、女人女人と、生まれながらの性別で判断することに何の意味があるのか、と思う。
「女人に勝つ自信がおありではないから、私と組手をしてくださらないのですか?」
「何を言っている?逆だろう。女人を傷つけるのは、男のやることじゃない」
「組手は、傷つけることではありません。相手を知ること、だと思います。ぜひお試しください」
「詭弁だ」
と少年は言うが、静はどうしてもこの少年と組手をしたくてたまらなかった。
「どうすれば、組手をしていただけますか?私はあなたのことが知りたくてたまらないのです」
静の言葉に、少年は目を丸くする。
「おかしな姫だな。どうして組手にこだわる?」
「兄上は対等な組手をしてくださらない。あなたは私と年の頃が近いとお見受けします。ぜひ、腕試しをさせていただけませんか?」
「オレに敵うと思っているのか?」
「それは、してみなければ分かりません」
しつこく食い下がる静に、少年はため息をもらした。
「では、試してみればいい。その代わり、勝負がついたら去ってくれないか。訓練の邪魔になる」
と言い添える。
「はい、ありがとうございます」
恐らく少年は一度、軽くいなしてしまえば、静が大人しくなると思ったのだろう。
しかし、静は少年の拳の勢いを手で受け流し、自分の拳をふるった。少年が避けるのを見計らい逆手で攻撃を仕掛ける。
拳の中に風をはらませ、空気の震えを誘った。少年は息を飲むのが分かった。少年もまたじりりと小さな火の気をのせ、もう片方の拳を打って来る。静は拳を受けながら火の気を感じ、静は心が躍るのを感じた。
決着がつかないまま、成り行きを見守っていた少年の親族の者が声をかけてくる。紗紅那の部隊長を務めている人物だった。
「飛鳥。静龍姫は、中々の使い手のようだ。ぜひ、訓練相手をなっていただけば?」
と言うのだ。
静からすれば願ってもないことだった。飛鳥と呼ばれた少年は、戸惑いの視線を静に向けたままだ。
「驚いた。このような姫もいるのだな」と言う。
「私は碧羅の静龍です。静か、静龍とお呼びください」
「オレは紗紅那の飛鳥だ。飛鳥で構わない」
飛鳥と名乗った少年の瞳の中に、少し熱が見えるのが分かった。さっきまでまったくの無関心だった眼差しに熱が帯びてきているのだ。静は手を伸ばし、飛鳥に握手を求める。
飛鳥は戸惑ったようだったが、手を重ねてくれた。
手を重ねたとたんに、静は自分の中の木気に動きが出るのを感じる。飛鳥に向かって流れていくような感覚があった。
飛鳥もそれを感じたのかもしれない。静の顔を見た。
静が微笑むと、飛鳥もまたはにかんだように笑う。
「よろしくお願いします、飛鳥」
「ああ、よろしく。静」
この少年とは親しくなるに違いない、静はそう思った。
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