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鬼脈と呪術
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しおりを挟む一時的に土気が高まっていくのを感じ、璃蛇が明らかに辛そうなのが静には気にかかった。璃蛇からすれば、強い土気は自らを剋す五行だ。
「璃蛇様、やはり少しお辛いのでは?虎牙が気を吸い、水気へと転化出来ればよいのですが」
「お構いなく、静龍様。あいにく私は、虎牙様とそのような関係ではございませんので」
とすげなく言われてしまう。静は璃蛇がどのような意図で言ったのか分からなかったが、
「五行の転化量は、たしかに親しい方が多く効率的です。ただ、虎牙は強い金の気を持っておりますし、それほど問題はないかと思いますよ」
と言うに留めた。
虎牙は壁に剣を刺していき、土の五行を自らに吸い込んでいく。そして璃蛇へ向かって、
「水気へ転化させようか?」
と言うのだが、璃蛇は頑なに首を横に振るのだった。
「すっかりと嫌われているな」
と虎牙は飄々として言うが、璃蛇はにこりともしない。
「何か言ったの?」と静が言うと、
「璃蛇姫が、世事に疎い可愛らしいお姫様なだけだ」
と虎牙が言う。
転化が不要とはいえ、璃蛇姫の様子を見ると、放っておいてよいとも思えなかった。砂塵に紛れて、ぼたぼたと壁から土蜘蛛が落ちてくる。ヒッと璃姫が息を飲むのが分かった。
「璃蛇様、虎牙か飛鳥の影にお隠れください」
と静は声をかけ、長刀を振るう。緑葉が散り、土蜘蛛の背を割った。ぼたぼたと床に落ちる土蜘蛛の上に、手のひらから種を蒔き、花を咲かせる。
「璃蛇様、お水をいただければもっと大きな花が咲きますよ」
と静は璃蛇に声をかけた。
璃蛇は飛鳥の着物を裾の掴み、静の様子を伺っている。
飛鳥が女性と近い距離を取るのは、少しだけ胸を刺す痛みがあるが、それどころではないと思った。璃蛇が飛鳥のそばから離れ、指の先から倒れた土蜘蛛の上に水の雫を垂らすと、芍薬の花が咲く。土蜘蛛を養分として、いくつもの花が芽生えた。
「ありがとうございます、璃蛇様」
「美しいな」
と飛鳥は言った。
「姉上の方がもっと美しい花を咲かせるけれど。私はこのくらいね」
「芍薬とは意外だな、静龍が咲かせるのは野茨かと思った」
と虎牙が余計な口を挟んでくるのだが、璃蛇の視線が自分に向いているのを感じた。
瑠亀がそうであったように、璃蛇も静に対して、あまり良い印象がないのかもしれない。飛鳥に思いがあるのなら、余計と静を邪魔に感じても無理からぬことだ。とはいえ、今思い煩っていても仕方がない、と静は思う。
「土気が少し減りました。参りましょう」
と璃蛇や、飛鳥や虎牙へと声をかけた。
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